「アジアの路上で溜息ひとつ」前川健一著
Amazonの検索で見つからない??)

薦めない理由は一つ。読んで前川氏の世界にはまり、旅に出たまま帰ってこなくなっても責任取れないため。悪しからず御了承されたい。

一人旅をしていた時期がある。

1996年2月から3月にかけて、私は東南アジアにいた。

留学先の上海から香港へ船で出て、マカオ、シンセンを回った後に空路バンコクへ。マレー半島を縦断した後、台湾経由で帰国した。総行程約2か月。
留学後に旅行をしてから帰国する人が多かった。そこで私はこの本の影響で東南アジアを選んだ。
本当はウイグルパキスタン経由でインドへ行きたかったのだが、ちょうどペスト騒ぎで断念した。それで良かったのだと思う。インドに行っていたら、今日本にいないかもしれない。

熱帯の国の印象は色彩が豊かだったこと。バーツ危機前の経済成長が著しい時期だったはずだが、私の記憶の中のアジアの国々は植民地の夢の後のように見える。ちょうど旅行中、マレーシアはラマダンの最中で、昼間は静かだったからかもしれない。
昼ごろ起きて洗濯をし、夕方になると少し出歩いて日が落ちるとまた眠る。2,3日に1回外出か移動。安宿から安宿へ。そんな旅だった。日本の大学への復学までの、束の間の夏休み。帰れば3回生。あっという間に就職活動が始まり、人生が決まっていく。もう少し漂っていたい思いが、格好良く言えば内省的、悪く言えば堕落した旅を私にさせた。
(日本の季節は冬だが、東南アジアは夏のような暑さだったから「春休み」の実感はない。強いて言うなら乾期?)

いつかこの旅のことを文章にしようと思っているが、いまだ果たせていない。

帰ってからも同氏の著作をよく読んだ。一人旅ならではの、出会いと別れ、悪意と善意。淡々として、どこかユーモアと寂しさがある同氏の文体が、当時の私を惹きつけた。最近見かけないが、どこかに定住したのか、別の生き方をしているのか。今どうしているのだろう。