信州大学公開講座「比較憲法」5月20日受講記録

今年度も信州大学公開講座の比較憲法学(小池先生)を履修したのでメモ。

 

昨年度は帝国憲法と新憲法の「縦の比較」を扱った。新憲法は旧憲法期の失敗をどのように生かそうとしたかを学んだ。

今年度は小池先生の専門により近い諸外国憲法との比較。

 

比較憲法学の定義(樋口陽一 1992)

「比較憲法学とは、諸外国の憲法現象を比較の観点から対象として取り上げる科学のこと」

小池先生の説明:ここでいう憲法現象とは、制定された憲法それ自体や運用実例、憲法についての意識、憲法の社会的関係への働きかけ全般をいう。憲法典それ自体から意識までも含む様々な現象を対象としている。

 

戦前の比較憲法

帝国大学に設置された憲法講座と国法学講座が中心だった。旧帝国憲法プロイセン憲法を参考にした。西洋から知識を仕入れることなどが主な研究目的だった。

日本独特の制度と西洋共通の立憲主義の立場の相剋が問題となる。第一次大戦以降全車が優位となってしまった。

 

戦後の比較憲法

米国型の違憲審査制が取り入れられる(第81条)。

国立国会図書館資料

https://www.ndl.go.jp/constitution/ronten/05ronten.html

比較先として米国憲法の研究が盛んになる。芦部信喜ハーバード大に留学した際に違憲審査制を研究・紹介し、戦後の比較憲法学が盛んになる。

情報技術の進展により他国の資料が入手しやすくなり、研究者間の情報交換も容易になった。

 

比較の意義(比較憲法学の目的)

比較を通じて外国の憲法現象に対する理解を深め、日本の憲法現象の特徴を明らかにする「認識の学問としての比較憲法学」と、日本の憲法問題解決に役立たせる「実践の学問としての比較憲法学」の二つの側面に分けて考える事ができる。

 

比較の問題点(注意点)

日本国憲法は一度も改正されておらず、世界で14番目に古い憲法であるから遅れた存在である」という主張がある。このような自説を補強するための比較は誤った結論や認識を生みやすい。

合衆国憲法は過去20回近く修正されているが、その修正点のほとんどは日本国憲法に含まれている内容である。例えば修正第1条から第10条は表現の自由や信教の自由、適正手続についてのものであり、日本国憲法には織り込み済み。修正第13条は奴隷制の容認を改めるものであり、日本ではそもそも認められていない。修正第26条は18歳選挙権を規定し、第27条は議員歳費について。これらは日本国憲法では法律に委任されている。

 

樋口陽一「比較は証拠にならぬ」

1979年にすでに「比較のなかの日本国憲法」の中で、形式的な比較にならないように注意が必要、と言及されている。