信州大学公開講座 比較憲法 第三回「家族の形を比較する」

 今回のテーマは家族。同性婚の問題を通して現代における家族の意義を考えさせられる内容だった。日本においては先日、同性婚の問題に対して岸田総理は「社会が変わってしまう」と発言して物議を醸した。

 

日本では21世紀に入り3つの地裁判決が出ている。

(1)札幌地裁判決2021年3月

同性婚を認めないことは性的指向に基づく差別

(2)大阪地裁判決2022年6月

憲法14条にも24条にも反しない。婚姻の本質「男女が子を産み育てながら家族として共同生活を送り、次世代に承継していく関係」を伴うものではない

(3)東京地裁判決2022年11月

同性カップルに婚姻制度が設けられないのは問題

24条違憲状態

 

婚姻法制は民法739条に「戸籍法に定めるところにより届け出ることによってその効力を生ずる」と定められている。

その戸籍法で「夫婦が称する氏」の記載が申請要件となっていることから、事実上同性婚が受理されない仕組みになっている。

 

実はこの問題は米国においても社会的に容認されたのは、実は最近になってからである。

 

英米における同性愛への規制

1553年 イギリス「異常性交禁止法」(男女間も含む)

米国植民地にも継承された。

米国 ソドミー

ソドミー行為(非自然的な生殖に結びつかない性交にふける)を取り締まる州法が制定される。

キリスト教的な道徳規範意識が背景にあるものと思われる)

 

1950sの同性愛差別

Aキンゼイは性科学の見地から「男性の10%、女性の2~6%が同性に性的指向を持つ」ことから「同性愛がありふれたものだ」と科学的に主張し「グレーゾーンの人もいる」ことにも言及したが、波紋を呼ぶ。

 

マッカーシズムによる弾圧

赤狩り」と「ラベンダー狩り」

レッドパージ(英語:red scare )と同時にマッカーシーは同性愛者も標的にした。

マッカーシー上院議員は同性愛者は「セキュリティーリスク」であるとし、連邦政府が雇用するには不適切とし、公職から追放を主張。

 

ちょうどこの頃、「ホモファイル運動」と呼ばれる運動が起こる。カリフォルニア州で同性愛者の団体が設立された。この時代は弾圧の時代だったこともあり穏健な運動に終始した。

 

1969年 ストーンウォール イン暴動

NYのゲイバーに警察が踏み込み、店内の200名が取調べ。1名の女性がパトカーに乗せられる際に警官が暴行を働き暴動に発展。1週間続いた。

70年代の積極的権利運動のきっかけとなる。公民権運動や女性の権利運動と結びつき激しい抗議活動となる。

 

1977年 ハーヴェイ・ミルク射殺事件

同性愛者であることを公表していたミルク氏が市議に当選。

教育現場から同性愛者を追放する条例をめぐり対立していたダン・ホワイト市議が辞職後にミルク議員を射殺。

 

1971年 ミネソタ州裁判

同性カップルが婚姻許可証の発行拒否され裁判になる

州の最高裁は以下の理由で訴えを退ける

1)婚姻は異性間の結びつきを一般的に意味する

2)家庭における子どもの出産養育を含む

3)男女の婚姻は創世記に遡る

 

2003年 テキサス州裁判 Lawrence事件

1組の同性カップルソドミー法違反で逮捕される。

ソドミー法が合衆国憲法修正第14条違反であるとし、性的自己決定権に反するとして出訴

合衆国最高裁ソドミー法は同性愛者に過大なスティグマを課すとし、テキサス州ソドミー法は違憲で無効であるとした。このことで同性愛者を犯罪として取り締まる法律は無くなった。

 

判決後、2015年までに36州+ワシントンDCが合法化。

 

2015年 最高裁判決 Obergefell事件

同性婚を認めていないオハイオ州に住む同性カップルが婚姻後、一方が死亡。自分の名を死亡証明書に記載することを求めて提訴。

最高裁

憲法が保障する基本的人権には個人の尊厳や自律に大切な個人的選択が含まれる

婚姻の権利は基本的権利に含まれるため、同性カップルを異性カップルの下位に置くことは重要な権利の保障ができないため意見。

最高裁が婚姻について述べた4点は以下の通り。

①婚姻はそれを通じて他の自由を見出す関係性

②婚姻は他の結びつきとは異なる特別な結びつき

③婚姻は子どもの最善の利益を確保するもの

④婚姻は社会秩序の要

 

本判決の問題点

「婚姻の神聖さを掲げ、同性カップルを排除すべきでない」という理論構成。

婚姻それ自体の社会的価値を強固にする理論であり、選択的に婚姻しない者の権利を新たに排除することにならないか?

 

日本の状況

「社会が変わってしまう」岸田首相発言。

「家族や価値観が変わってしまう」

 

講義内容は以上。

 

以下感想。

岸田首相の「社会が変わってしまう」発言に対しては、数年前にニュージーランド国会でのスピーチでですでに結論が出ていると思う。

 

モーリス・ウィリアムソン議員 賛成討論から

同性婚が認められるとよくないことが起こると心配している方々にお約束する。明日も太陽は昇る。旱魃は起きない。あなたの娘は、相変わらず言うことを聞かない。あなたの住宅ローンは増えない」

同性婚が法制化されても、関係ない人たちにはこれまでの人生が続くだけ。何も変わらない」

「私たちがしようとしていることは、愛し合う二人に婚姻を認めると言うもの。お金もかからない」

 

実際、同性婚カップル(日本では事実婚)が共同で家を買った場合、一方が亡くなったときに相続の問題が発生する。異性カップルであれば配偶者に相続権が発生するが、同性婚の場合は遺言を正式な方法で残さない限り、親戚が法定相続することになる。例え1円も払っていなくても。

このまま放置することの方が余程無理があると私は思う。

国は一刻も早く現実を認め、法制化していただきたい。