アメリカという国について

11の国のアメリカ史

www.e-hon.ne.jp

 

読書を再開する。

 私は「アメリカ合衆国」という国からずっと目を背けてきた。大学受験の失敗(と言って良いと思う)でメインストリームから外れたことが直接のきっかけだったと思うが、もともと多くの人が注目しないことを見ることを好む傾向があったからだろう。

 中国には何度も行き、国際政治を知ったような顔をして語る割にはアメリカに行ったこともなければよく勉強したこともない。中国の省と各地域の特性、世界遺産の場所、方言ならば中国語で説明できるくらいに諳んじているが、アメリカについて知っているのは大都市の場所くらいだ。州の位置すらよくわからない。ロサンゼルスとサンフランシスコがどっちが上にあったのか、時々わからなくなる(島根と鳥取のようなものだろうと諦めてはいるが)。

 唐突に「アメリカについて知りたい」と考えるようになったのは、いくつかの要因による。

1)トランプ現象は日本も無関係ではない。日米両国で反知性主義がなぜこんなにも支持されるようになったのか知りたい。

2)現在空前の金融緩和でアホみたいに高騰した米国株式市場の先行きが興味深い。崩壊すれば「バブル崩壊」だが、サブプライムローンと似たような状況をアメリカ金融当局と投資家たちがどう回避しようとするのか。群衆心理的にも大変面白い。

 海外旅行に行けないこの数年を使って、少し勉強してみようと思った。

 

 アメリカを理解するために同書を選んだのは、各地域の相違をよく理解すべきだとしばしば耳にするからだ。

 北米大陸はカナダとアメリカの2カ国しかないと私たちは学んできた(メキシコは入らなくていいんだよね?)。しかし、同書によると北米大陸は実際にはいくつかの「国」ともいうべき文化圏に分かれており、相互に交わることはあまりないという。これらの連合体が合衆国であり、カナダなのだ。環境問題や同性婚、選挙などで色濃く違いが出る。

とりあえず同書から、各地域の特性を簡単に整理してみたい。

 

1 ヤンキーダム

場所:アメリカ地図の右上の一角からカナダ国境沿い中部くらいまで

欧州の宗教対立を逃れた急進的カルヴァン派が宗教の自由を求めて建設した。教育を重視し知的な功績を評価し、政府を市民の拡大したものだとみなし、外部権力や貴族、企業などから市民を守るものであると考える。コミュニティのより大きな善を追及する。

 

2 ニューネザーランド

場所:ヤンキーダムのちょっと下、大西洋沿いの都市部

17世紀のオランダ支配の生き残り。多民族、多宗教、経済的利益に忠実で、商業的自由貿易を重視する。1663年にイギリスに敗北したオランダに替わって財政、出版、商業の世界的拠点に成長した。住民も投機的な気風を持ち、移民の玄関口となり続けた。面積は狭いが人口集中地区であり、欧州の中小国より人口は多い。

 

3 ミッドランド

場所:アメリカ中部の大西洋岸から中央内陸部までに帯状に広がっている地域と、五大湖の北岸。ヤンキーダムの地域を囲むドーナツ状をしている。シカゴやセントルイスがここに含まれる。

ドイツ系子孫が多くを占めている。旧大陸での専制支配から逃れてきた人々が多いため、政府のトップダウンに懐疑的な態度をとる。カナダ領内では英語話者でアメリカ独立革命後に移住してきた人々が多い。アメリカ領内では中道的勢力を占めている。

 

4 タイドウォーター

場所:ミッドランドの下。大西洋沿岸。

植民地時代から建国期まで最も強い力を持っていた。保守的で伝統と権威を尊重する風土がある。平等や政治参加にはあまり価値を置かれていない。イギリスの荘園地主のような存在が合衆国建国の中心的役割を果たした。南部に追従したため1830年代から40年代に弱体化し、現在では後述のミッドランドに侵食されている。

 

 

5 大アパラチア

場所:ミッドランドの下の内陸部。

北アイルランドイングランド北部、スコットランド低地の戦争で荒廃した辺境から移住してきた人々を祖先に持つ。粗野で好戦的な気風を持つ。「ヒルビリー」「レッドネック」「貧乏白人(クラッカー)」「白人のクズ(ホワイトラッシュ)」などと評されてきたが、先住民やメキシコ人、北部からきたヤンキーたちと衝突を繰り返してきた。

戦士的倫理観(!?)と個人の自由、個人主権を強く重んじる。南北戦争では北軍側に属したが、戦後はアフリカ系奴隷を解放しようとする北部ヤンキーに抵抗した。合衆国の兵士の大半を供給してきた。マッカーサー氏もここの出身。

 

6 深南部

場所:アメリカの南部、メキシコ湾沿岸一帯。奴隷領主によって創建された。

民主主義は一部の人の特権であり、多くは奴隷の子どもとして生まれた。最も非民主的で一党支配が続いている。

この本の著者は深南部に好意的な記述はしていない。ラテンアメリカへの領土的野心が潰えると、周辺地域を巻き込んで南北戦争へ合衆国を誘った、と酷評している。

現在もなお人種を理由とした政治の二極化が根強く、「ディキシーランド」と呼ばれる。

 

7 ニューフランス

場所:カナダのケベック州とその周り

北フランスの習俗と現地先住民の文化が融合した。堅実かつ平等主義的でコンセンサスを重視する、最もリベラルな地域。

 

8 エル・ノルテ

場所:メキシコ北部と国境沿い

スペイン帝国北米大陸に創建した16世紀に遡る最も古い植民地。北アメリカ植民の歴史は古くても戦国時代なのである。スペイン的アメリカとの文化の混在地域で「ヒスパニック系」の故郷だが、メキシコシティよりもアメリカを志向している。メキシコ国内ではアメリカへの傾倒を問題視するというより、より勤勉で自給自足的、独立心があるという評判を得ている。

しかし、国境線が中央部を通ることで東西冷戦期のドイツのようになってしまった。2050年までに「ヒスパニック系」は人口の25%を占めるようになるとされている。

 

9 レフト・コースト

場所:太平洋岸。ただし、アラスカまで。主な都市はサンフランシスコ、ポートランド、シアトル、バンクーバー

ニューイングランドから船で来て実権を握った商人、宣教師、森林生活者などの人々と、内陸を荷馬車で縦断してやってきた農民、探鉱、毛皮商人などが最初に入植した。ニューイングランドの知性主義と理想主義が色濃く残っている。

環境運動や情報革命の発祥地であり、LGBT平和運動、60sの文化革命を主導した。

 

10 極西部

場所:アメリカの真ん中辺から左側の沿岸部の手前まで。カナダの西部とアラスカの南部。高地で乾燥している地域。

自立した農業などは困難であり、鉄道、ダム、灌漑施設などが東部の大規模資本により開発がなされた。それなしに生活が成り立たなかったことから、まるで国内植民地のようであった。連邦政府に反発しながらも援助を要求しており、深南部としばしば手を組むことがある。

 

11 ファーストネイション

場所:カナダの上半分。ツンドラ、氷河地域を多く含む。寒い。

アメリカ先住民がいまだに多く居住しており、文化的慣習と知識を保持している。極西部を近年侵食している。

 

こう考えると、私が知る中国とは随分異なっている。中国各地に住む人々は原住民だ(少なくも16世紀以降は)。民族も宗教も異なり、かつては言語も相互に通じなかった。だが、これほど分断されている印象はない。20世紀に入って文字とメディアの普及が1つの国としてのまとまりを作りつつある。一部のトンデモは「中国が分裂する」と90年代から言い続けているが、そんなことを夢想する中国人はほぼいないだろう。

それに比べると米国の多様性はどうであろう。新しくきた住民だが、移民の子孫であることから祖先の国の文化を色濃く残しており、欧州連合が100年以上前に成立していたようなものではないか。

同書を読み進めて、アメリカへの認識を改めたいと思う。