空き家問題と我々はどう対峙すれば良いのか

世界の空き家対策

公民連携による不動産活用とエリア再生

 

空き家問題についてここのところ考えていた。自分も空き家を作っている一人である。実家の処分に思いの外コストがかかる。covid19以前であれば、上物を取り壊し更地にさえすればそれなりに売れた地区であったが、現下においては更地にしても売れない可能性が高い。そんな事情で固定資産税対策として現状維持としているが、街全体にとっては良くないことだ。若い頃の一時期、空き家問題に取り組んで者として忸怩たるものがある。

勉強のために同書を読んでみた。

 

同問題の本質は現在の日本の人口減少局面において、今後使われなくなる土地が増えているということだ。すなわち、現所有者ですら今後維持できない可能性があるため、いかにしても改善の見通しが立たないことだ。そのことが見通しを暗くし、市場からエネルギーを奪っているように感じている。

同書は2018年に書かれた。それからcovid19の蔓延により経済力は一層低下し、日本の状況は悪化を加速させている。同書で紹介される海外の事情は参考例になるだろうか、と言う期待を込めて読み始めた。

冒頭で指摘される通り、空き家問題は以前は過疎地だけの問題であった。しかし、今では郊外住宅地や中心市街地でも深刻な問題となっている。今後はおそらく平成に大規模開発されたマンションや都心などにも広がるのではないか。

 

1 各国における空き家の実態

空き家率1.3ポイントの内訳は「売却用」「賃貸用」「別荘など」「その他」。問題となるのは「その他」のうち、なんの措置もなされていないものや、募集をやめた賃貸や分譲マンションなどだ。高齢化率と地域の相関が高く、腐朽と破損ありが4割弱を占める。

空き家「率」の最も高い県は鹿児島だが、空き家「数」の多いのは大阪である。都市部は率は低いが数が多い。「地方特有の問題」では決してないのだ。東京では高齢化の進度が遅れており、あるタイミングで空き家率が今後跳ね上がる可能性もある。

戦後住宅の多くは中古住宅としての市場価値が低い傾向にある。このことが空き家問題の根底にあるようだ。

筆者によれば、空き家所有者の半数以上が相続によって入手している。空き家にしておく人の半数弱が物置としての利用、解体費用、利活用のアイディアがない、仏壇などがあり捨てられないなどの理由を抱えている。

海外での実態は、アメリカでの空き家率は日本と大差ない水準にある。ドイツは日本の3分の1、フランスは3分の2。ドイツとフランスは移民流入により人口増傾向にあるが、フランスは郊外では人口減が続き空き家は増えている。イギリスが最も低く、さらに低下する傾向にある。人口増傾向にあることが一因である。

 

2 「空き家法」などの対策

(1)日本の空き家法施行

空き家等対策特別措置法の施行後、自治体が代執行措置などがとれるようになった。代執行のケースでは一般に150~200万がかかるとされるが、同署によると室蘭市では擁壁崩落が重なり840万もかかったと言う。また、所有者不明の場合は略式代執行だが、これは費用回収は見込めない。自治体にインセンティブがない。韓国でも日本と同様の状況が起きているが、決定打はない。

(2)行政の費用回収について

同書の言う通り少なくも代執行時の費用回収の仕組みを作る必要がある。しかし、「建設時に解体費用を積み立てさせる」案が同書に書かれているが、人間の人生はそんな単純なものだろうか。例えば自己破産や任意整理で不動産を売らざるを得なくなった人は、積み立てを差し押さえられたりしないのだろうか。

(3)現行制度に問題点はあるか

相続放棄制度の問題点への言及がある。

放棄は相続財産ごとにできないことがハードルを高くしている。

放棄時の登記制度がない問題への言及があるが、「相続放棄」ではなく国への所有権移転にしてはどうか、と思ったが、モラルハザードが起きそうな予感しかしない。同書にも同様の懸念が指摘されている。

とはいえ、解体費用徴収と所有権放棄の仕組みづくり以外に方法はなさそうである。両制度を整備することが当面必要だろう。

自治体による「空き家バンク」がしばしば注目される。全国で約1千前後の自治体がこの制度を持っているとのことだが、2014年時点では半数の自治体で成約件数が9件以下となっていると言う。

一方、実績が出ている空き家バンクは不動産業者やNPOを通じて積極的に物件情報を収集し、b物件案内や生活、仕事面での相談、移住者と引き合わせるなどの踏み込んだ対策を取っているところが多い。職員だけでなく、住民等との協働が鍵となっていると言う。成約件数最多は長野県佐久市

だが、投入した予算に対してリターンはどうなのだろうか。1つの部門を移住定住に割くことで、当然他部門の人員に響き、その面での政策は確実におろそかになる。財政的に余裕のある自治体ならばともかく、高齢化の進む自治体では福祉政策への全力投入が必要になっており、事の優先度を誤ると住民QOLが低下してしまう。個人的にそこが一番知りたかったところだが、その点について同書では言及がなかった。

(4)各国での政策

ドイツでは、住宅維持管理は義務であり、未然予防策として所有者に対して建物の近代化や修繕命令、取り壊し命令を自治体が出すことができる。フランスでは人口増加を続ける大都市で空き家への重課税が行われてきた。

いずれも人口増加への不足する住宅供給を是正するため、空き家を市場に戻す政策である。空き家コストを引き上げるか、不動産の価値が下がらないよう所有者に責任を課す2つのアプローチがある。

もし日本でこれら政策を導入しようとしたとしても、中古住宅市場に住宅を出したくても市場価値が低い、または「ない」以上、罰則や義務規定はただの負担増である。

(5)点と面の政策ミックス

そこで、一旦点としての家屋の問題から離れ、エリア全体を面として再生する政策と空き家を不動産市場へ戻す政策をミックスする手法が考えられる。まちの「スポンジ化」が進む典型例は宮崎市で、空き地の割合が18.3%(2016)となっている。立地適正化計画と複数の政策をミックスさえ、コンパクトシティ化を図っていくことが考えられると同書は指摘している。埼玉県の毛呂山町が同政策の成功事例として紹介されている。居住誘導区域では空き家を活用し、他の地域では解体を進めていく方式は、全国でも例が少ないと言う。

ただ、私はこうした行政による「都市計画」に強い不信感を持っている。事実上の経済活動である以上、競争原理にさらされないことで起きる不具合は、独占市場のそれと変わらないように思う。独占市場の弊害をいちいちここでは列挙しないが、決して小さくない。

 

3 アメリカの住宅事情

(1)市場動向

米国では住宅はアメリカンドリームを体現するものとして、取得へのモチベーションは一般にとても高いが、連邦政府の政策も持ち家の促進にベクトルが向いており、財産や投資対象として高品質な住宅を生み出してきた。

ところが新規購入者は減少している。30代の雇用条件悪化、学生ローンの債務返済などが足かせとなっている。価格高騰が続く地域と正反対の地域の二極化が進んでいる。市場は多様な所得水準に対応できるようになっており、そのため住み替えも頻繁に行われる。90年代以降に不動産流通システムが確立した。住宅は耐久消費財ではなく、貯蓄手段の一つと認識されている。サブプライムローン危機により差し押さえが550万件余となって以来、住宅価格は下落に転じ、固定資産税を主要財源としていた自治体が苦境に陥り、地域コミュニティにまで影を落としている。(固定資産税を財源に自治体が学校運営を行うシステムの問題点として、貧しい地区はより貧しくなると言う身も蓋もない話があったと聞いたことがある)

ただし、アメリカは景気が拡大すると移民が増大することから人口が増加すると言う社会構造を持っているため、経済のあり方と不動産市場が日本より密接にリンクしていると言える。この点は日本と異なるところである。近年は低下した持ち家志向に代わり、集合住宅の需要が高まっている。

(2)流通システムの発達

売主と買主の間にエクスロー会社(手続きや代金決済を仲介する業者)が立ち、円滑な不動産取引を実現している。手数料は発生するが、不動産情報の円滑な流通には良い面があるだろう。全国を網羅する不動産データベースがあり、政府部門の関与により透明度の高い不動産取引が実現できている。買主のための簡易な住宅検査制度も整備されており、安心して購入できる。

(3)空き家発生の抑制の仕組み(調査:筆者)

・住宅データベースの整備

・取引における分業化

・各事業者の手数料確保によるインセンティブ

・建物減価の適正な評価システム

・エクスローシステム(第三者の介入)が制度化している

・不動産契約歴を管理する保険会社が介在

・住宅検査システムの存在

・所有者不明土地を防ぐ仕組みの中に保険会社が介在している(読んだがよくわからない)

・空き家増加による衰退した地域では「ランドバンク」が活動している

 

とりあえず今日はここまで。