信州自治体学会記録

信州自治体学会 H30.11.17
開催 小諸市「市民交流センター」
講演1 小諸市環境水道部長 土屋政紀 氏(信州自治体学会)
講演2 関東学院大学経済学部 豊田奈穂 先生(経済学)

上記日程で参加してきました。
「感想」「講演1」「講演2」の順で分割してアップします。

<水澤感想>
コンパクトシティ」という言葉をしばしば耳にするようになって久しい。
人口減少が加速しつつある昨今、郊外化が進んでいる多くの市町村において、特に行政施設の維持について危機感を持つようになった。「まち(むら)じまい」という言葉まで生まれている。
「人口が半分になり税収や交付金が減額されたとき、行政は水道や道路を維持できないのではないか」「近くの商店がなくなってしまい、生活できなくなるのではないか」という一種の「恐れ」が、これらの発想の背景にある。

現実を見つめてみれば、その「恐れ」には無理からぬところがある。
しかしながらそれを「どのように実現するのか」によっては、結果(過程)は大きく違うのではないか。
小諸市は公共施設の集中は行きつ戻りつを繰り返しながらも、一定の成果を見たようだ。市長が3人も交代するという政治的機器を乗り越え一定の方針を維持できたことはほとんど奇跡に近い。しかし、市街地への民間投資は現時点では未だに見えてこない。
1 小諸市の民間投資について
(1)人的ネットワーク
一般に大規模な公共事業の後には住民の人間関係やネットワークは大きく変化する。目に見えないこころの中も同様である。
民間投資マインドはそうした要素が複雑に絡み合って成立する、偶然性が高いものである。
1日しか市街地を見ていないが、市街地での事業や開業を支援する人のつながりはどのようになっているのだろう。市役所が補助金を出しても、商工会議所の指導員が孤軍奮闘しても会社も店もできない。大家や地権者と調整し彼らを巻き込むことは、行政関係の苦手とするところである。
開業が相次いでいる地域では、希望者を受け止める人のつながりが必ずある。地域の目に見えない支援を受けられなければ、地域での商売はできない。

(2)市街地のコスト体質
 他の市部に見られるように、駅前商店街は店舗をビル化した。
 近年。中心市街地に商店が出店している事例の多くは、地権者の協力と低廉な賃料が前提条件となっている。従って、商業ビル化した地域での再生は難航している。維持にはコストがかかることから、一定の収益性がある事業以外は出店できないからだ。
 解決のカギは地権者やビルの所有者が握っている。彼らは小諸市民なのだろうか。同じ建物に住んでいる人はどのくらいいるのだろう。中心市街地の鍵は地権者にあることが各地の例でわかっている。
(3)歩きやすいまちづくり
?古い町割
小諸市は発展の経過から、古い町割が残されている。平成バブル期までは非効率であっただろうが、「歩いて暮らす」これからの時代にはちょうど良い大きさである。北国街道時代の道筋が残り、駅に向かって下り坂になる個性的な街は、とても魅力的に見える。
?市街地を見た感想
午前中は小諸市の土屋部長さんのご案内で、まちあるき(エクスカーション)が行われた。「北国街道」には中山道東海道ほどのネームバリューはないが、十分な潜在能力があると感じている。
複数の建物を取り壊しから守るために、市で買い取っている。(民間での買取ではなく、市所有としたことのメリットデメリットはいずれ研究してみたい)

(4)佐久市、軽井沢の脅威
急速に郊外化、ファスト化が進行する市が近隣にあることは、市街地型商業成立の脅威になるだろう。小諸市商業のこの先数年のことを考えるとき、佐久市のことを意識せざるを得ない。佐久市の郊外化は他の市町村同様、いずれ失速すると考えられるがそれはまだ先のことだろう。
結婚式場などを軽井沢に取られた話題が上がったが、それはかえってよかったのではないか。若年人口が急速に減少する局面では、ニーズと投資のバランスが難しい業種である。手は出さないほうが無難だろう。
(5)小諸市の「郊外」
今回のコンパクト化構想を、旧村部はどうみていたのだろうか。
浅間山山麓は登山でしばしば訪れたことがある。りんご農家が点在し、いかにも長野県らしい風景が広がっている。
南部にも農耕地帯が広がっている。駅には無人販売所が併設されている。
今回は市街地を中心に見たため、それぞれの地域のコミュニティの様子まではわからなかった。
それぞれの地域にもくらしがある。コンパクトシティ化を進める市町村の「郊外地」のコミュニティがどのような様子なのかは今後の研究課題としたい。
(6)新幹線が通らなかったこと
よかったかどうかはわからない。余計なことを考えなくてよいところは良かったのではないか。

2 自治体職員と「コンパクト化」政策
 何かを作る政策と異なり、「コンパクト化」は「廃止する」「統合する」という住民の不利益を伴うことから、ほとんど支持されない。それでも実施しなければならないとき、私たち市町村職員はどのようにその現実と向き合えばいいのだろうか。
 今回の学会に際し、ずっと気になっていたことがある。「もし、市街地の縮小により集落の中核になっている施設を移転することになったとき、どうやって住民を説得するのか」ということだ。移転自体には「やります、ごめんなさい」以外に言いようはないのだろうか。不利益を被る側は被害者としての姿しか思い浮かばなかった
しかし、最後の意見交換の際、高橋寛治さんがご発言された中に「人の関係性をつくる」というお話を聞いて考えを改めることができた。
どのような場合にあっても人同士の関係は維持し、再構築し、変化しながら継続していく。「まち」とは、建物そのものではなく、建物や土地によって作られた人の関係性であり、人の関係性によって作られた都市構造のことである。地域のハードが変わっても人の関係性をどのように構築するのか。畢竟、自治体職員の主戦場は高度経済成長時の開発期でも、人口減少の縮小期でも変わらないのではないか。
自らもその中に身を置いて、関係性づくりを全力で支援するだけのことである。
今回は都市計画の話題と思って、あまり詳しくない分野であったこともあり少し身構えてしまったかもしれない。