昨年から参加している下諏訪町公民館の「下諏訪みらい塾」で、私のグループは今年は若者インタビューをおこなっている。そのまとめを行うために、移住定住について少し勉強してみようと思った。
著者の藻谷ゆかりご主人はまちづくりなどで著名な方だが、奥様のこの本も非常に参考になったので簡単にまとめたい。同書はご自身の長野県への移住経験のほか、多くの方へのインタビューなどの結果から考察をまとめたものだ。
1 移住する層の傾向の変化
初めに基本的なこととして、近年の移住者の大きな変化として年代層の変化と、それに伴うニーズの変化が挙げられている。
年代 中高年から20代、30代の若者に中心世代が変化している
住居 戸建て住宅から賃貸物件、その後自宅取得。中古住宅の「リノベーション」(リフォーム)を視野に入れている
仕事 年金や貯蓄をもとにした生活スタイルから、移住後も仕事をしつづける必要がある
教育環境 子育てが終わった世代から、子育て中の世代に変わったことから、関心が高い
自家用車 1台で済ますスタイルから家族分必要
2 移住を決める際の材料「所得」と「時間」
また、移住のメリット、デメリットを評価し「生涯可処分所得」「生涯可処分時間」を考慮する必要があるとし、その考え方を解説している。
前者は総収入から生活コストを差し引いたもので、著者は住居費の安さや自家用車所有のコストに言及している。
後者は都会で暮らすために必要となる時間、例えば通勤時間を総時間から差し引いた時間のことである。
3 就業形態について
(1)就業形態の変化
移住後に仕事を継続する必要がある若年者の移住については、その就業形態の変化に着目する必要がある。著者は就業形態を「メンバーシップ型」「ジョブ型」に分け、移住者には後者が多いとしている。一般的な言葉で言い換えれば前者は「サラリーマン」で後者は「開業できる専門職や自営業」ということで大体良いだろう。
(2)複数の仕事を持つこと
専業から複業(副業を持つのではなく、複数の収入源を持つ形態)の時代に変わっているとのことだ。以前、信州自治体学会が長野県南部の旧清内路村で行われた際に、同村落での就業形態にこの「複業」が多く見られた。一つ一つの市場と需要が小さい山村ならではの就業形態だが、この形態が移住者の中にも見られるという。
(3)移住と地域おこし協力隊
なんの仕事をするか特に決まらない人には「地域おこし協力隊」を検討するよう勧めている。開業などを視野に入れている人は応募の際には副業を認めているかをポイントとすることを提案しているが、地域おこし協力隊を公務員だと思っている人が多いため副業が目立つと思わぬトラブルになることがあるという。
なお、地域おこし協力隊には1人あたり440万円×3年間の予算がかかっているという。
4 育児環境
都会の保活事情に比較すると地方では保育園の待機児童問題は非常に少ないが、幼稚園がないことがある。また、未満児保育が十分でない地域もある。
小中高が公立である場合がほとんどである。学習塾や習い事の選択肢は大幅に制限されるが、レジャー費用などはアウトドアを好むのであれば大幅に節減できる。
5 移住に関する不安について
著者は以下のデータをあげている。
「ウェブモニターアンケート」であることからデータの精度は低いように思うが、実感的にはこの二つが不安の双璧なのだろう。
調査主体:一般社団法人移住交流推進機構(JOIN)2017年調査
調査対象:地方移住に興味がある20~30代既婚男女500人
調査形式:ウェブモニターアンケート
調査内容:地方移住を妨げている大きな要因
1位 「移住先では求める給料水準に及ばない」25.6%
2位 「田舎の人間関係が不安」23.6%
著者はこの統計を紹介している記事で都会でもママ友付き合いの困難さを挙げ、地方特有のものではないがコミュニケーションスキルの高さは重要であると書いている。
また「妻ブロック」(妻の反対にあうこと)について、地方の高齢者を中心に嫁は家事担当で将来の介護要員と見做す傾向があることが原因の一つとしている。
6 事例
同書には事例がインタビュー録のような形で挙げられている。
ドーナツ屋経営と教育スタッフ兼業(複業)
木材店とゲストハウススタッフの兼業
会社員から酪農ヘルパーに転職、夫婦で複業
古民家民泊と酒米づくりの兼業、元地域おこし協力隊
満員電車回避のために移住、会社員、転職エージェント活用
大手出版社を退職、二拠点生活へ
パン店舗を東京から地方へ移して移住
自動車会社のエンジニアを退職しチーズ職人に
祖父母が亡くなって空き家になった家に移住
私立小中学校への入学のために教育移住
空き家再生のためのNPOを設立し社会企業家に
ニートからUターンして起業、国内最大級シェアに成長
予期せぬUターン移住、町会議員に当選
7 その他
著者は経験から「地方自治体が子育て世帯の移住を本当に望むのであれば、教委、小中高学校、保護者や児童生徒と協力して地元の人たちにとっても多様な価値観を持つ人にとっても住みやすい教育環境とすべき」とし「移住時に地元のPTAの役員が地域に馴染みやすいように茶話会を開いてくれた」エピソードを紹介している。
→子どもがいることで地域との交流が生まれやすいのではないか。受け入れ側住民のコンセンサスも重要。
住居の問題については、実家や祖父母の家が空き家になったところへ移住することで解決を図った事例があった。
祖父母の家に移住することを「孫ターン」、妻の実家へ移住することを「嫁ターン」、誰かを追って移住することを「追いターン」などと分類している。
長野県の年配者には「若者を外に出すな」と考える人が多いが、一旦外に出て学んだからこそ地域の貢献できるという考え方を理解してもらいたい、と書いている。
Learn to unlearnとは、「学ぶために今まで学んだことを捨てること」=「自分をアップデートする」意味。これができる人が移住でうまくいっている、と結んでいる。