各市町村とも決算議会の時期となった。
税務部門は最も端的に住民の生活を明らかにする所得情報を持っている。今回の議会は「コロナ最初の1年(令和2年)の所得状況」を発表する最大の機会だ。
給与所得をコロナ前の1年(令和1年)と比較することで、一体何が起きていたのかを明らかにすることができるからだ。各地の議会でも質問が多かったのではないか。
諸事情あって本稿を用意していたが、「下諏訪町ではそんな情報は不要」とのことなので没原稿となってしまった。
個人情報に関わる部分に配慮しつつ簡単にまとめた。
下諏訪町でコロナ前後で最も変化したのは給与である。
1 下諏訪町民の給与総額
令和元年 30,923,119,925円
令和2年 29,512,838,443円
1,410,218,482円(4.56%)の減少
本統計は課税のために把握している給与収入を合計したものである。
コロナ禍の始まった最初の1年で町民の給与収入は14億円減少した。
2 給与所得者数
令和元年 7,463人
令和2年 7,298人 2.2%の減少
コロナの最初の1年、165人減少した。
事業所からの給与支払報告や本人の確定申告等により1円でも給与収入が認められた方を合計した。この減少の大半は60代の退職であるため、異常事態とまでは言えない。そこで次の項目で1人あたりの額の減少幅を見てみたい。
3 1人あたりの給与収入額
令和元年 4,143,524円
令和2年 4,043,962円 4.5%の減少
4 分析
(1)所得者減と1人あたり給与収入の減から何が読み取れるか
上記でも述べたとおり、下諏訪町は人口構造上就業者より加齢による退職者が多い。
「2」の人員減少幅は平年の減少に比べて特段に増えた印象はない。だが、給与の減少割合が4.5%の減、給与所得者数が2.2%の減と、明らかな乖離があることが認められる。
また、減少額を減少人数で除してみると、1人あたり850万円である。この程度の額を退職金として受け取ることができるのは、町内ではそれほど多くない。すなわち、町民の一般的な退職所得を大きく上回っている。このことから考えて、退職者による給与収入減ではなく、給与収入そのものの減少が起きていたと考えるべきである。
コロナでの家計支出は市町村税務課では把握しておらず、推計もできない。だが、下諏訪町の所得構造から考えるとあることがわかる。
下諏訪町には伝統的にある所得構造がある。つまりいわゆる「余裕所得」のある所得階層は下諏訪町では1000人に満たず、大半の方が中下層域に固まっており、上昇が望めないという構造がある。したがって、ほとんどの方は固定的支出が家計の大半を占めているのだ。
それにも関わらず、平均で1人あたり10万円の減、共働き世帯であれば20万円がマイナスとなった。固定的支出を削らなければならなかった方が多かっただろう。
その中には学費や医療費、食費などが含まれている。
本来は給与階層別の減少幅を算出してみれば良いのだが、ちょっとそこまではやりきれない。ただ、ざっとみただけで全所得階層で減少が認められる。
(2)個別の状況から読み取れること
個人的感触では減少幅は思ったより少なかった。
ただ、個別の方々の状況を見て気がついたことがある。昨年1年間は特にダブルワークをしていた方がとても多かった。下諏訪町は複数給与所得者をカウントできるシステムを持っていないため集計できないため数字を示すことができない。また、個人情報が推測できる情報になるためここでの公開も困難である。
ただ、給与所得のデータ入力作業を行なった際に顕著に見て取れたのは、コロナ最初の1年の昨年は少なくない方がダブルワークをしていた。非正規雇用の方は半数以上がされていたように思う。「ダブルワーク」どころか、3つ、4つ、人によっては5つ、6つの仕事を掛け持ちしして給与の減少を補っていたことだけは記録しておきたい。
5 まとめ
その実態が知られないまま新しい年のコロナ対策施策が作られてしまったのは、非常に残念である。飲食店等の苦境は目で見ることができるので施策化しやすい。
しかしながら町民の大半を占める給与所得者の苦境がほとんど知られることがないのはなぜなのだろう。大半の町民の苦境に対する支援は行われないのは、実に理不尽だ。
一体誰のための税金なのだろう。