バラマキの何がこわいか

 国の「緊急経済対策」で多額のお金がばら撒かれることになった。市町村の負担分もあり、下手にもらってしまうと借金をごっそり背負ってしまう内容らしい。岡谷市下諏訪町が、新規の事業を考えるのではなく、既に予定していた事業へ充当してしまったのは驚きであったが、国の考えを想定していたのだろうか。「上に政策あれば下に対策あり」と言ったところか。市町村にとっては妥当な選択であり、国の経済政策としては単に「地方の借金を国につけかえた」だけだ。

国民こそ良い面の皮である。

市町村にとってバラマキのこわさはここにある。諏訪地方では、下諏訪町ハコモノを大量造成した平成9年の悪夢が思いだれる。国の甘言に乗るととんでもないことになる。


もうひとつ、日本経済にとっても「バラマキ」は非常に危険だという。
個人的にはある程度の公共事業により急場をしのぐことは必要であると思うが、しかし、それはセイフティネットなどの分野や成長分野に限るならば、だ。建設業のような衰退産業につぎ込めば、彼らが延命してしまうだけでなくスタグフレーションの原因になる。

スタグフレーションとは、物価上昇と賃金減少が同時に発生する経済の異常事態だ。
1970年代のアメリカの衰退は、これによって惹起された。
つまり、ハイウェイと都市開発に多額の資金をつぎ込み、毎年多額の借金返済に追われることになった。財政が硬直化したところへ景気変動のマイナスの波が来てしまい、ベトナムで死に掛けていたアメリカの自治体財政を奈落の底へ突き落としたというわけだ。

どこかで聞いたような話だと思うのは早計だろうか。

小泉首相・竹中財相が登場するまでは、方向性が明らかに誤った「経済対策」によって日本もスタグフレーションの道をまっしぐらに進んでいたのかもしれない。しかし、小泉改革においては、「米百俵の精神」に代表されるような「規制緩和・緊縮財政」政策を採用し、どうにか失われた10年に終止符を打てた。


アメリカの自治体はその後、「小さな政府」を目指して財政削減を進めた。

ドルが基軸通貨だったため、ドルを発行することで世界の資金を集め、何度かバブルを演出することで債務を減らそうとこころみてきたが、今度こそ命運きわまったのかもしれない。

日本円は基軸通貨になれないため、アメリカのような為替奇術を行うことは出来ない。その上、今後売れそうな「医療技術」「IT」などは、中小企業が取り組みにくい分野でもある。ここ数年、精密や自動車といった、今後売れそうも無いようなものの技術を自慢し、天狗になっていたことが悔やまれる。

諏訪地方もそのうちに空洞化(アメリカ化)することが目に見えてきた今でも、「東洋のスイス」などという、スイス人が聞いたら仰天しそうな名前がこのあたりの市町村のホームページや、何かのレセプションの挨拶では語られている。

GDPが戦後最悪の数字になる見通しだ。しかし、「本来の数字へ戻ろうとしているだけ」のようにも思えるのだが、どうなのだろう。