地域ブランドとシティプロモーション

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週末に迫った信州自治体学会に備えて、書籍を購入して読んでいる。いわゆる中心市街地再生を中心とした「まちづくり」の現場を離れてから新しい用語がでているので、知識の補完のためである。本書では「地域ブランド」という概念と「シティプロモーション」という2つの概念を軸に、「地域の魅力向上による稼げる市」という理想が何故うまくいかないかが論じられている。
地域ブランド」とは「その地域らしさ」を中心とした地域の魅力のことである。その魅力はお金を生むはずである、というのが近年流行している考え方である。
 野田前総務大臣ふるさと納税についての泉佐野市の方針を批判し「地域独自の産品はどのような市町村でもある」と断言した。
しかし、その考え方は誤りである。商品化可能な商品とは、地域らしさ、地域の伝統文化に根付いたオリジナリティを持ち、かつ市場受けするものである。両方を兼ね備えていないにもかかわらず、野田前大臣のような誤った考え方に基づいて「地域ブランド」づくりのために大金を投じている市町村は多い。
「シティプロモーション」とは、その市が目指すべき政策である。現代日本においてこれについてはほとんど選ぶ余地はない。つまり、急速に増加する後期高齢者の交通、医療(介護)、生活の対策と同時に、人口の自然減をある程度維持する持続可能な人口政策である。長野県内はほとんどすべての自治体ですでに高齢化が相当程度進展していることから、これら政策はちょうど折り返し地点が見えてきた段階にある。つまり、とっくに実施されているものでなければならない。しかしながら、何故か少なくない自治体が着手すらされていない。
交通においてはコンパクトシティ化をはかりつつ、高齢者の買い物や通院などの手段を整備していなければならなかった。これについてはコミュニティバスなどが導入されている程度で、市街地を意図的にたたみながら中央部や拠点部に収斂させていく都市計画がされていなければならなかったが、90年代には未だに郊外化を進めていた自治体も多い。
疾病、介護の予防はH20年度に国が政策として導入した特定健診、特定保健制度が軌道に乗るまで、ほとんど従来と変わらない政策をとっていた自治体も多い。それどころか、此の期に及んで未だに人員を削減している自治体もある。
同署によれば、いや同書に寄らなくても「地域ブランド」と「シティプロモーション」は連動していなければならない。しかし、「地域ブランド」は税収減の危機感がバイアスとなり、商業、観光振興のような人口減社会では非常に困難な政策として採用されることが多い。誰に何を売り出すのかもはっきりしないまま、その地域の一部の人々が思い入れを持つ、野田前大臣のいう「どこにでもあるはずの地場産品」を半ば捏造し、コンサルタントに作文をさせて補助金を取るなどして体裁を整えては、多額の予算を無駄にしてきた。
地方自治体の目的は地方自治地方第1条の2にある「住民福祉の向上」であるはずなのに、他の自治体から税金によって人口を奪い合う移住政策を救世主のように勘違いしている市町村もある。
現在の日本の市町村においては、目指すべき「シティプロモーション」の姿は高齢者対応策以外にはなく、人口ピラミッド構造により遅いか早いかだけの違いで訪れる「多死社会」において、社会のあらゆる場面での人手不足に備えることである。社会を効率化できるところは効率化し、高齢者が可能な限り自立して生活できる街の構造を作ること以外に、取り得る政策はないはずだ。
A級観光資源を有し、観光だけで収益が黒字となる市町村はほとんどない。にもかかわらず「地域ブランド」として観光関連資源を中心にする自治体が多いのは、それが一番わかりやすいからであり、住民の合意が集まりやすい(実際のニーズは他にあるにもかかわらず)からにすぎない。
それがないのならば、高齢者対策に力点を置いた「住みやすい街」としての地域ブランドを目指さなければならなかったが、なぜかそうはならない。
ひとつは市町村においてそれぞれの部署が別々であることが原因のひとつだが、(観光と福祉、都市計画と保健部門、など)住民の中にも政策の重要度を見極めようとする動きはあまりなく、両者を統合的に見て行政に参画する人が非常に少ない。
無論、両者がかみ合い力を発揮し始めている自治体もある。事例がいくつか同署に紹介されているので、興味のある方はご一読をおすすめする。

地域ブランドとシティプロモーション

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