「島」問題と中国漁民のやるせなさ

4月から通っていた今年度の信州大学公開講座「中国語中級」(松岡先生)が先週末終了した。使用したのは「時事中国語の教科書」という時事問題をテーマとした中国語教科書である。講座回数が限られるので全てを終了できなかったが、それでも非常に有意義だった。

この教科書には現代中国の状況が紹介されている。第1課は習近平氏がアメリカでの講演原稿だ。習氏がスピーチなどの際に非常に庶民的な言葉を用いる人であることが解る。台湾人を祖先に持つ米国のバスケットボール選手の活躍を、本土の中国人ファンが喜んでいる回もあった。

特に印象的だったのは、「中国漁民のやるせなさ」というタイトルの回だ。漁民の実態が紹介されている。尖閣諸島のことは言及されていないが、この回の情報をもとに島問題を見ると、全く異なる側面が見えてくる。

中国は改革開放後、5カ年計画により漁業振興を図った。結果、漁民は大幅に増えたのだが、近年漁業資源が枯渇しつつあるようだ。原因は乱獲、公害が挙げられているが、温暖化などの影響もあるだろう。「朝出航して夕方に帰る頃には船いっぱいの魚が捕れた」時代は過ぎ去ってしまったという。

漁業資源の開発が行われていないわけではない。しかし、それは大規模資本によるもので、当然漁業権は囲い込まれている。勝手に漁をすればむごたらしい制裁が待っている。沿岸の個人営業主?は、小さな船で遠洋航海を余儀なくされているということだ。

中国漁船が遠洋に出れば、地理的に日台韓や東南アジア諸国と衝突する。漁業振興の正当性を守る中国政府としては、他国を押しのけてでも彼らの権利を確保しなければならないのではないか。南沙諸島尖閣諸島などで近隣国家に軍事的圧力をかける中国政府の態度は、そう考えると合点がいく。

そう考えれば尖閣諸島に上陸しようとして海保に捕まった例の中国の漁師さんの行動について、別の見方ができるとおもう。日本での報道を見ていると「ただのDQN」としか見えない。(もう少し多角的視点で報道出来ないものか)

もし中国政府が強硬に出ている理由に漁業問題があるのであれば、日本には出来ることがあるのではないか。漁業資源の開発や零細漁業者の組織化など、日本が高度経済成長期に取り組んできたノウハウを中国に提供できるだろう。東南アジアにODAで巡視船を買い与えるそうだが、施しはODAの主旨ではない。

漁業が再生すれば雇用が産まれるので経済的にもポイントが高い。少なくも漁民は助かるだろう。10億人に質の高い魚食を提供できれば、中国の人々に健康を提供できる。周辺国は平和を享受し、一石三鳥だ。ついでに日本の回転寿司チェーンが沿海部に進出できれば、儲かるんじゃないか。

是非、我が国国会議員諸氏におかれましては、本件について真剣に取り組んでもらいたい・・・と思う。ただ、そのためには最近の偏狭化な国内世論が許容するかどうかが問題か。

こうしていつの世も、日本の外交は対国内配慮でふらふらになってしまうのだな。