- 作者: 塩野七生
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2009/06/27
- メディア: 文庫
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「海の都の物語 5」
中世ヨーロッパ。東地中海で覇を唱えたヴェネツィアは、日本の教科書では大航海時代の到来に乗り遅れて衰退したかのような印象を受けるが、事実ではない。実際はその後も数百年間、経済的繁栄を維持していた。
安価な香辛料がインド航路からもたらされ、新大陸から銀がもたらされても持ち前の機動力と意思決定の早さ、人材の活用によってヴェネツィアは見事に乗り切った。中国の攻勢にさらされて衰退を続ける日本の地方工業にとっては、学ぶべき所が多いはずだ。
当初、ヴェネツィアはエジプト、トルコ、黒海周辺の国家と友好関係を結びながら、東方からの香辛料貿易で財を成した。ドイツ地方から陸路で集まる商品を売り、香辛料を持ち帰ると言う交易国家であった。交易ルートを守るために強力な海軍を維持し、海戦で勝利する為に優れた情報網と、少ない人口のため貴重な人材を最大限活用できるシステムを持っていた。
ところが、大航海時代により他国がインドへの航路を開き、安価に香辛料を持ち帰ることに成功する。日本の世界史の教科書はここでヴェネツィアを壇上から退場させてしまうが、実はこの後第三幕があがる。
市場主義が徹底したコスト削減を可能なら締め、低価格な香辛料に対抗した。官営の非効率なスペインらの香辛料相手に競争力を保持し、健闘したと言うことが各種の経済指標が示していると言う。一方で、友好国であったエジプトスルタンに軍事援助を与えて、インド洋の航海において脅威を与えるなどしつつ、スエズ運河の開削を検討したと言うことだ。うまくいっていれば、レセップスは歴史に名を残すことが無かったのだろう。
そうやって時間を稼ぎながら、ヴェネツィアは交易国家から産業国家へ転換をしていく。イタリア半島の諸国家かが戦乱に巻き込まれている中で外交を駆使して平和を保ち、投資を誘発して優れた外国人技術者の移住を歓迎しつつ、ガラス、絹織物などの軽工業を発展させた。また、文献の蓄積や文化人の多さが活用されて出版業が起こった。
ヴェネツィアの優れた点は、政府の機動力と外交政策の良さのように見えるが、市場のエネルギーを最大限活用した所にもあるとおもう。そうでなければ、こうも同時多発的に多角的な経営はできなかっただろう。
翻って日本はどうか。
・・・やれやれ。