ノマドと社畜 ~ポスト3・11の働き方を真剣に考える

ノマドと社畜 ~ポスト3・11の働き方を真剣に考える

たまには実践的な書を読もうと思った。ネットで大変話題となっている「ノマド」について海外での経験者の著作。ビジネス書は経験者のものが個人的には一番好きだ。自分が試行錯誤した経験は何物にも代え難いホンモノだと思う。応用が利くからだ。

読んでいて、前職での経験を再総括出来た。過去の経験は何度も再総括してみることが大事らしい。前職については以前は否定的な感情しか持てなかったが、今振り返ってみるとそうでもない事に気づいた。良い読書だったと思う。

気づいた事を簡単にまとめておく。
ノマドについて>
ノマド」の定義を私はしらない。
ただ、同書に列記されているような知的産業だとしたら、その分野で独立して生きて行くことは、分野が非常に限られているだろう。その事を私は前職で少しだけ知る機会があった。

前職の私の仕事は簡単に言えば業界団体の組織化とレベル向上にあった。20代の私にできたことは、実際にそんな大層な物ではなく小間使いに過ぎなかったが、それでも様々な勉強をさせて頂いた。その経験の中から同書の感想を述べてみたい。

私の前職の中には「コンサルタントの先生をお願いして業界団体のレベル向上を図る」といったものがあった。当然何人ものコンサルタントの先生にお会いする事があった。

成功しているコンサルタントの多くは税理士や公認会計士だった方が多かった。商売柄多くの経営者にインタビューする機会が多いのだから、会計系の発展型としてコンサルはアリだろう。税理士の傍らコンサルタント業務をやる方、コンサルタント事務所のような物を開いて手広くやっている方もいた。

元企業経営者だった方や、大手中途退職者の方はユニークなタイプの方が多かったが、こうした方々を講師に迎えた講演会などは好評だった。会計系の方々に比べると実践的な知識は豊富だからだ。中には数字に強い方もいたりした。

中小企業診断士の資格を取るのが当時はやっていたが、今もそうなのだろうか。私も前職に留まれば取る事になっていたが、会計の実績も無く、業界にも素人でしかない私が取っても大成しないだろうし、実際誰の役にも立たないだろうと考えて、前職は辞めてしまった。正解だったと思っている。

同書の冒頭の「ノマド」(要するに自営業)に憧れる変な日本の若者達を同書は一蹴しているが、私にも彼らを理解出来ない。
中盤で実績主義の欧米のビジネス市場について述べられているが、欧米ほどでないにしても日本も中途や独立系の方々の取引に置いては実績を重視する。私が前職にいた頃は、まだ実績より「信頼関係」重視(要はコネ)の現象を良く見かけたが、最近はより実績主義に変わりつつあるはずだ。学生達を見ていると実績も無い私が肩書きだけで偉そうに社長さん方にお話をお聞かせしていた恥ずかしい時代を思い出す。(思い出して穴を掘って埋まりたくなった)

恥ずかしいと思えてよかった。
実は希望して勤めた職場でもなかったが、貴重な経験をさせてもらえたと思う。実績の無い人には何も語れないと言う事を身にしみて教えてくれた。
「空」からは何も産まれない。どこかで何らかの経験をし、その経験を基礎に他人に売り込まなければ、誰もお金を出してくれない。応用も利かない。当たり前だが、当たり前の事を直視するのは勇気がいる。

同書に登場する彼ら学生(学校でろくに勉強していないなら「学生」という呼称は適当ではないかもしれないが)達の言い分を聞いて、前職でお会いしたある方々を思い出した。

コンサルタント好きの社長さん達の事だ。

本業がうまく行っている傍ら、改善点を探るために契約するならばともかく、本業がうまく行かない事から目を逸らすために高いコンサルタントさんの会に入会したりしている人たちがいた。きっと今もいるのだろう。
彼らが支払った会費や書籍代(1冊5万もしたり)は、本当にその先生の力を必要としている会社さんの餌になるのだろうな、と思った。その事を誠実に指摘すると会ってくれなくなるので言えなかったけれど、私にもっと使命感があれば言っただろう。前職の後悔の一つだ。

<業界について>
業界の未成熟については前職で痛いほど感じた。同書触れられていたフリーランス組合の可能性は、日本では殆どない。同業組合も親睦会の域を出ない組合も多く、建設業など、ひとり親方的商売の多い一部業界を除けば、農協しかない。

同書では細かく触れられていないが、自営業者の政治的発言力の弱さは税制面での施策の未熟さにつながっている。業界がモノを言わなければ役人は解らないから施策は産まれない。
政治家も解らない。解ったような振りをする事はできる。だから、誰かに吹き込まれた事を自分の意見であるかのように言う政治家の多さは目を覆うばかりである。自らが経営者である政治家に期待されるが、自社と自分の業界の事しか解らない人が多い。総じて言えば、同業種なり異業種なりの業界団体の政策形成能力を向上させる必要がある。
もっとも、どうやれば良いかは皆目見当がつかない。優秀なコーディネーターとファシリテーターが必要だが、そうした人たちを受け入れられる素地は、欧米のような壊滅的な敗北を味わった社会でなければ存在し得ないからだ。

典型的な例は金融だ。資金調達を銀行からの借入に大半を頼る日本は、先進国とは言えない。共同金融が話題になっているが、主流を占めるまでには至っていない。日本は自営業の造血器である金融システムが不全状態である。その不全状態で自営を行うのは、ハンデ戦である事はあまり知られていない。

<私について>
結局私はノマド?として生きたいと思わない。仮に特別な売れる能力を持っていたとしても、やはり今の仕事に就いていたと思う
税金の申告は面倒だし、国保国年は頼りにならない。病気になって数日休んでも会社員ならクビにならないけれど、自営業なら不渡りを出してしまうかもしれないし、結果倒産するかもしれない。倒産からの復活は以前よりマシになったが、それは死ななくてよくなったレベルでしかない。
実際、この田舎町で自営業を切り回している方とお話しすると、私とはレベルが違う事が良く解る。能力に会った分野で努力して、少しでも上の仕事ができるよう努力すればいいと思う。できれば同書で提言しているような、首になっても転職できるようなノウハウを身につけたいとは思うけれど。