学校をブラックから解放する

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同書は変形労働時間制の導入前に執筆された。私が買ったのは一昨年の6月。現状を打開しようと考え、まずは状況を俯瞰しようと何冊かの本を読もうとした。その目論見はそれ以前にあっさりと押しつぶされてしまった。あれほど追い詰められている人たちを見たのは私は初めてだった。なんとか糸口を探そうと時間を作って学校へ足を運んだが、結果として私自身が潰れてしまった。先生方の力になれなかったことは一生の後悔になるだろう。

 

平成28年文科省教員勤務実態調査では、1週間あたりの勤務時間平均が53.9時間であり、調査参加34カ国中の38.3時間に比較して非常に長い。しかし、授業時間は特別に長いわけではない。中学校においては部活動指導の時間が長時間労働の原因の一つになっている。また、事務業務、授業計画、準備時間が特に長い。日本の教員は教科指導以外に生徒指導、部活動指導を一体化して行うことが特徴である。部活動は「ぜひやりたい」と言う教員がいることや保護者からのクレームが、外注の障壁になっているという。国による介入以外に解決の方法はないが、国の動きは鈍い。

長時間化傾向は是正されず、教員の健康と家庭に大きな犠牲を強いている。同じ地域の仲間であるはずの学校の先生を私たちは日々見殺しにする結果となっている。同書では学校管理者の責任を問うているが、小中学校は予算権限は市長部局にあり、多額の予算は交付金を頼みとするため国に多くの権限を握られている。県教委が人事の実質を握り、教育事務所が市町村教委を指導する体質は今も変わっていない。学校管理職にできることは限られている。

同書では対応策として「学校の役割の明確化、教員の職務の精選」「定数の改善」「外部専門スタッフの配置拡充」などが挙げられている。

事業の整理の例が同書に挙げられているが、一方で一部事業をボランティアに頼ろうとしたり、現実的ではない方策を国は考えているようだ。ボランティアの調整には時間を取るものだが、その点は考慮されていない。地域の高齢化で担い手を頼むことができない地域もある。

学校の一つの問題は、誰かの思いつき事業が学校に押し付けられ、先生方が担当する状況を防ぐ必要がある。地域ぐるみで監視する必要があるが、学校内部の出来事や意思決定は外からは見えにくく牽制が働かない。また、教員の仕事の明確化は、「縦割りだ」といった日本人お得意のクレームで潰されるのではないか。

2つ目、3つ目の人数の増員をすれば、業務が多く持ち込まれるようになるだろう。何れにしても容易ならない改革が必要である。

そもそも、校務や部活を外部に出すことを進めておきながら、教科内容を次々に増加させていく国の態度を見れば、国の本気度の低さは明白である。そもそも教員の働き方改革の目的を「先生が生徒と話す時間を増やすため」としているあたり、もうおかしいとしか言いようがない。

 

この問題に私がこだわるのには理由がある。

この問題は私が教育委員会事務局在籍時にできなかったことの一つだ。「教員の長時間労働」解消のための仕事が分担になかったため、私が勝手に手をつけた。ところが在席中は国や首長部局からトップダウン式に次々と押し寄せる不要不急な仕事に振り回された。あの職場で起きたことがこの問題の解決を阻む原因であることは明白だ。答えがわかっているのに手も足も出せなかった。どう考えても人災だ。そのことについては強い怒りを感じている。

 

私が見た学校の様子はこうだった。

学校が学校長の指揮下に必ずしもなく、教育委員会が協議する場になっていない。首長部局が予算を掌握しているため、大きな事業はほぼできない。たとえば「給食費の徴収の学校から別部署への移管」や「部活動指導員の導入」「支援級の充実」「不登校対策」など、喫緊の課題への予算増額はほぼ認められなかった。その事業を一緒に考えるためのスタッフすらいなかった。それどころか教委の人数が多すぎると考える幹部までいて、中から変えることに絶望せざるを得なかった。