心理学入門(放送大学)

心理学入門 (放送大学教材)

心理学入門 (放送大学教材)

心理学は心理的要因からその人の行動変容とその過程を探る学問である。従って人権に対する配慮が非常に重要視される。
心理学が科学として確立されるためには、検証可能な仮説がたてられ、仮説の検証のために厳密な方法がとられ、結果を他の研究者が検証できることが重要である。心理学は以下のような展開をみてきた。

0.近代心理学のはじまり
構成主義心理学 W.ヴント(ライプチヒ大)
物質と同じように心は「内観」によって構成要素に分解できるのではないかと考え「心の最小単位」を探ろうとした。だが、経験は分析的に眺めると別のものに変化する事があるとの批判から衰退した。
W.ジェームス(ハーバード大)は意識の重要性を指摘。意識を持つことにより自分が置かれている状況を認識して適応できること、自分の将来を設計できるようになったと考えた。心の働き方に着目したことが特徴。

1.今日の心理学の領域は以下の通り。
(1)実験心理学学習心理学認知心理学知覚心理学
人や動物がどのようにモノを認識し、知覚、記憶し問題を解いているのか、基礎的な人の心の動きを研究する。実験が多数行われる。
(2)発達心理学教育心理学
変化の原因のうち、生物学的理由と教育や経験はどう関係するのかを考え、どのように教育されるのが望ましいか考える。
(3)生物学的心理学(神経心理学、生理心理学、比較心理学)
脳と心の関係を探る。
(4)臨床心理学(カウンセリング心理学、人格心理学)
病気や患者への援助の実践。
(5)社会心理学産業心理学、組織心理学を含む)
お互いがお互いをどのように認識し、影響し合っているのかを探る。

2.研究法
(1)記述的研究法
?ケース研究
1人または少数の人を深く研究する。フロイト(S.Freud)は一握りのケース研究を行い成果をあげた。ケース研究は典型性が問題視されるため、他の方法と併用されることが多い。
?調査研究
一般性を確保するために行われる。言葉遣い、サンプリングなどに注意が必要。
?行動観察
観察して記述する方法。観察者の主観、観察者の存在が影響する事が問題となる。

(2)相関研究
二つの事情に相関関係が認められることがある時は、相関係数を用いる手法もある。個人の違いを無視してしまう傾向がある。因果関係との違いに注意が必要。(例:虐待を受けると将来その子が虐待をするかどうかは相関があるが、個人によって異なる)

(3)実験的研究
因果関係を明快にするためには片方を定数とし、片方を変数とするような手法がとられる。例としては2つのグループの片方にだけ変数となる要素を与えて、成績上昇の実験を行うなどが挙げられる。変数が独立変数か従属変数なのかも注意が必要。

第8章 考える
考えるとは、認知の断片を意味のあるまとまりにする行為である。
「既存の情報を操作して、新しい心的表象を形成する認知過程」と定義される。
(1)概念
「鳥」を認識する際に、私たちは学問的定義よりもどちらかと言えば、経験に基づく概念を用いる。前者は「人工概念」といい、鳥の場合は動物学的定義などの事を言う。後者は「自然概念」といい私たちが幼少期から培ってきた、時に非言語的な経験に基づく分類概念である。
ロッシュは典型例から遠い例については反応速度が遅いことを測定した。ニスベットは欧米圏では定義が重視されるが、アジア圏では概念の関係性が重視されることを指摘した。

(2)イメージ
視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚を思考の材料とする。関係性を把握するのに、資格は重要である。

(3)スキーマ
概念同士の関係性を考えるのに、いくつものパターンを私たちは持っており、状況変化を予測できたりする。これをスキーマと言い、不足している情報を補うのに役に立つ。
(4)スクリプト
特定の出来事や行動の一連の流れについての知識。スキーマの一種。「電話をかける」というスクリプトの内容はこの10年で大きく変化した。
(5)問題解決
20C前半、ドイツのゲシュタルト心理学では問題解決を行う人の思考を2種類にわけている。ひとつは再生的思考。問題解決のパターンを覚えておき、その中の一部にあてはめようとする方法である。もう一つは全く新しい方法を考える生産的思考である。
同学派では、問題解決にいくつかの段階があるとしている。
?準備段階
解決すべき問題を明確にする段階。問題の構造を正確に理解する事。問題を解決しやすい形に再構造化することが重要。
?解明段階(アルゴリズムヒューリスティック
アルゴリズム
正しい場所で、正しく採用すれば、必ず正しい方法が導き出される手続きまたは公式のこと。ただし、複雑な問題や主観的問題にはアルゴリズムは適さないことがある。
ヒューリスティック
経験的に体得した解決策。正解は保証しないが、体験的に正しい方向への出発点となることがある。例として伝承に基づく津波対策などがある。過去の解決法の中から似た方法を選び出し援用するなどはヒューリスティック解決法である。
●解決の障害になる「構え」とは
過去の解決法にしがみつき、正しい方法を導き出せない固定化したものの見方のこと。
●解決につながる「あたため」とは
思考を敢えて中断し他のことをやってみると手段が思い浮かぶこと。スミスとブランケンシップは、「あたため」とは、解決に至らない無駄な思考を中断する事でそれを忘れるための期間を設けることができると指摘した。
?確認段階
問題の基準を満たしているかを考える期間。
6.判断と意思決定
間違ったヒューリスティックによるバイアスが判断を狂わせることがある。
?信念バイアス
確信している事実や他社の主張は無視したりアラさがししたりする。宗教、政治的信念などがある。
?アンカー効果
トパースキーとカーネマンは、最初の概念にとらわれることで全く異なった結果を導き出してしまうことがあると指摘した。1〜9の積を、1からかける場合と9からかける場合で、直感でどのくらいになりそうか答えさせる実験を行った。
?受け入れバイアス
トパースキーとカーネマンによる。思いつける頻度や衝撃度で判断してしまう。

ギャンブラー効果とは
確率においては同じなのに、あり得なそうな方向を選ばないバイアス。