信州自治体学会3(基調講演)

豊田先生のお話の概要は下記の通り。

基調講演2 関東学院大学経済学部 豊田奈穂 先生(経済学)
演題「縮小する都市が勝者になる時代」 小諸市の挑戦

専門は経済学。この話題は基本的には歓迎されない話である。中には不快に思う方もいると思う。選挙でもこの政策を掲げて戦うのは難しいだろう。しかし、現実として受け止めなければならない段階に来ている。
「国土のグランドデザイン2050」によれば、60%の土地で人口が半分になるとされ、自治体の持続可能性が問われている。医療の持続性についても医師の立ち去りによる病院の閉院などが相次いでいる。
この研究を始めたきっかけは横須賀市の研究である。首都圏は大幅に人口が増えており、神奈川県も増えている。それなのに三浦半島は減少している。その原因を分析しようとしたのがこの研究の始まりだった。
結果、三浦半島は人が転出しているのではなく、転入者が減ったことと、自然減により減少していることがわかった。どこかの自治体と人口を取り合うのではなく、自らの力で適正規模を規定して生きていく方法を見つける方が現実的と考えられる。
小諸市との出会いはちょうどこの時機に当時の研究を受け入れたことと、当時の政策がほぼ一致したからである。小諸市はまちの核を大型商業施設から、医療、福祉へ転換する政策を取っている。医療の持続性を視野に入れつつ病院を市街地に誘致した。
中心市街地では全国的に空き店舗問題が発生、通行量減少が顕著となっている。シニア世代が仕事から地域社会、日常の生活空間に活動拠点を移しつつあることを踏まえ、都市のあり方を考え直す必要がある。
たとえば現役世代が通う病院は職場近くの病院かもしれないが、退職後は活動拠点近くの病院になる(再配置が必要になる?)。
施設は一定の人口規模がなければ維持できない。人口規模で存在確率を推計すると、百貨店、総合スーパーが80%の確率で立地する人口規模は6.5万人、一般病院は1.5万人、銀行は0.9万人、郵便局は500人。銀行支店が近くにない時代が来る。
このような変化は静かに進行する。民間は足が速い。消えていくサービスは確実に存在する。公共サービスは逃げることが難しい。それは負担増となって住民のQOLを引き下げる。
行財政的には2005年国税調査ベースで人口7万人程度で1人あたり歳出額が最小化する。千葉銀行推計では人口20万人のラインで、下回る自治体は赤字。地方税収は小さい自治体ほど減少率が大きいことが影響していることがわかっている。
 水道料は人口密度が低いと高くなる傾向がある。神奈川県では1.6倍の差があり、今後料金差は拡大すると考えられている。水道料だけでなく、日々の暮らしのランニングコストを抑える取り組みを始めなければ、遠からずコストを肌身で感じる日が来るだろう。

近年話題の空き家問題について。増加するのは当然である。家を作りすぎだからである。空き家利用施策はどの自治体でも多かれ少なかれ行われている。


コンパクト化を指向する行政計画の実施困難性については、原因は2つ考えられる。
1)時間軸
調整に長い時間を要するため、計画途中で目標を見失うことがある。そのため、実現に対して信頼性が維持できない。民間投資が低調となる要因である。
2)合意形成
都市機能の集約化、コンパクト化はマイナス要素のため、ステークホルダー間の調整が困難である。

行きつ戻りつしながらコンパクト化事業を進めることになるが、戻ったまま帰ってこない自治体も多い。
小諸市コンパクトシティ化政策は、選挙で負けながらも少しずつ進んでいると評価できる。青森市が近年同政策で「失敗事例」とされることがあるが、しかし、今の段階で「失敗」と断じることはできないのではないか。中心市街地の再開発は行ったが、減量化まで「たどり着けていない」という段階と言える。
富山市は人口密度がそもそも薄かったため、密度を上げる政策が採用されている。郊外地からの移住促進を図ったところ、高齢者ではなく若者が移住してきたという現象がある。シニアは自分お家がいいと考え、郊外地に残っている状況にある。

この政策は長いスパンで考えないと、一気に進めるのが難しい特徴がある。政策を進める中で市民の中から「引っ越せというのか」という反発は必ず起きる。大切なのは、住み続けるかどうかはその人が決める問題であるということ。ただし、住み続けるには多額のコストがかかるということだ。今のままあり続けるか、縮小させるかは結局それぞれの地域で決めていけばいいことである。

コンパクトなまちづくりとは何か。北海道で指摘されているコンパクトシティの基本要素は、以下のとおりである。
・市街地の密度を高めること
・都市の中心から日常生活を賄う近隣中心まで、段階的に拠点を配置すること
・市街地の拡散を防止すること
・自動車をなるべく使わず日常生活が出来ること
・身近な緑地、オープンスペースを利用でき、循環型の生態系を維持しつづけること
・都市群を公共交通ネトワークで結ぶこと

各地の政策例
⚫◆山形県鶴岡市(ランドバンク事業)
密集住宅地(指定地域)の空き家、空き地の寄付及び低廉売却を受け、解体、整地、点倍により空き地と空き家、狭隘道路の一体整備を行う
空き家バンク、空き家委託管理事業等

富山市(まちなか住宅取得支援事業/補助金
住宅取得を目的とする金融機関からの借入額の3%、上限50万円
(中間空き地を両隣の土地所有者に文筆売却し、敷地を拡大する など)

◆海外事例 ヤングスタウン市
上限5万ドルの移転補助

アメリカ (ランドバンク=緑地化)
滞納状態にある放棄不動産を差し押さえ、売却できなかった場合は市が取得
所有困難な不動産を所有者からの寄付、譲渡によって取得

ライプツィヒ
・老朽化住宅の減築のため、市による除却で固定資産税を減免、除却後の土地を公有地化するなどの取り組みがある
・市民団体ハウスハルテンによる空き家再生事例
 大家:5年間無料賃貸(改修自由)
例えば商売などが成功し、不動産価値が戻り街に人が集まってくるようになる
問題点:5年過ぎて成功すると地権者はより高額な有償賃貸を希望する傾向がある

日本
空き家バンク導入市町村は54.4%

以上