「政府は将来ビジョンを示していない」のか

平成16年度の年金改革によって、我々の年金制度は大きく変わった。
これまでの、「給付水準維持方式」から「保険料水準固定方式」に抜本的に変わったことだ。理念と発想が抜本的に変えられたのだが、その変更を国民の多くは理解できていない。

それまでは給付をする水準を維持し、保険料をひたすら上げ続けるという方式をとってきた。しかし、これでは現役世代、ひいては日本経済がもたないことから、保険料の水準を固定して受給額を下げる方法へ変更されたということを意味している。
年金の給付重視から、持続性重視への抜本的大転換。
この時期、社会福祉政策全般が同様の転換を図っている。例えば、健康保険も平成20年から後期高齢者医療制度を導入し、高齢者も応分の負担をすることで自立を促す仕組みに大きく変わった。高齢者を無暗に保護するのではなく現役世代を保護する政策へ、大きく転換した。結果、保険料の上昇は平成29年度に16900円でまで収まる・・・はずだということだ。

この重大な変更をマスコミは十分わかりやすく報道しなかった。視聴者が年金を「いくらもらえるか」には関心はあっても、「どうしてもらえるか」という構造にはあまり関心が無いからだ。一日の仕事が終わって帰宅した後、複雑な年金制度の説明を受けたいという人はいないだろう。従って、マスコミはいつもどおりの文脈で伝えるしかなかったのではないか。

さて、12月13日(月)村上龍メールマガジンJMM上に、老後不安の問題について識者が寄稿している。老後や介護、年金に懸念を抱いている原因は、政府が本気で改革しないから、ということらしい。

真壁昭夫  :信州大学経済学部教授
確かに、わが国では多くの人々が、老後や介護、年金について懸念を頂いています。それは、日銀の貯蓄広報委員会のアンケート調査などから明らかです。人々の懸念を抱く最大の要因は、人口構成等の問題から、現在の制度が維持できないことが明らかであるにも拘わらず、政治が、本気で制度改革を行う意図が見られないことだと思います。つまり、先行きが、どうなるかわからない状況が続いていることに大きな不安を感じているのだと思います。

何をすれば「政治が、本気で制度改革を行う意図が見られ」るようになるのだろうか。
高齢者の年金を不退転の決意(だと思うが)で減額し、現役世代の保険料上昇を抑えたはずだが、これでも「本気」ではないという。どうすればこの国の国民は「本気」だと思うのか。
ヒトラーみたいに演説すればいいのか?

国はもう、とっくの昔に本気になっているように思う。明確なビジョンどころか、既に実施の状況にある。ゴールドプラン前後のあたりで、「ビジョンを示す」段階はとっくに終わっている。

新状況に適応できていないのは、私たち国民とそれを顧客とするマスコミ報道、そして「有識者」たちだ。
最近感じるようになったことだが、JMMには社会保障制度に詳しい専門家が足りない気がする。この国が背負う重い荷物は社会保障制度だ。これをどうやって背負い抜くかが「財政問題」であり、どの荷物をおろしてどの荷物を持っていくかがこれから求められる議論だと思う。