地方崩壊再生の道はあるのか<各論>事例集

勉強続き。

国の方針転換による急激な収入減は、自主財源のほとんどが人件費に消えるようになった中で独自政策のための予算がほとんどなくなってしまった。コスト削減のための予算もない中で、様々な取り組みをしている自治体がある。事例がいくつか紹介されていた。

愛知県富山村
人口200人。離島を除けば全国1人口が少なかった。「地域の絆を守る」として合併会費を模索したが結局隣村と合併。人口増対策のために保育料を下げたが自分の首を絞めているようだった、との感想が職員から。

千代田区
行政の貸借対照表には減価償却費が含まれていないため、フルコスト化を図る。区保養所が利用者1人あたり1万9千円かかっていることがわかった。運営を富士屋ホテルチェーンに委託し、区民以外にも開放した。学校給食を民間委託し1食1千円の経費を500円に下げた。広報誌に「保育のコスト」を常に公表している。

山口県美祢町
迷惑施設を誘致することで財政難を克服した。誘致した施設は刑務所。民間の警備会社と提携し、格子戸のない日本初の刑務所を実現した。地元への雇用効果、消費効果などがある。

長野県下條村
子育て世代を誘致したことで視察が相次いでいる。「若者定住促進住宅」を村が単費で建設した。村営住宅のようなものだが、国の補助金を使うと「子育て世代のみ」という入居条件の設定が難しい。予算規模22億円の村が1億円をかけたということだが、思い切ったことをしたと思う。60人いた職員を35人にまで減らし、小さな土木工事は村民の手で行うこととした。

*話はずれる。下條村の話ではないので念のため。住民自ら工事を行うことを「官民協働」や「コスト削減」などの面で評価する論調がある。しかし、こうした事業を無くす事で小さな土木工事屋さんはやっていけなくなってしまっている。土木屋は大企業に限って存在を赦すというのが最近のマスコミらしい。たぶん広告料をくれるからだろう。
もちろん、同署では村内の小さな土木屋さんたちがどうなったかは触れられていない。そういえば日経新聞は、日本の企業の大部分を占めている零細企業のことに関心など無いのだった。

北海道伊達市
市の公社がバリアフリー新興住宅地を整備し、毎年250人が道外から点有してくる。地下の上昇率が全国トップ。
「民間主導」で様々な事業が行われているという。高齢者が車の運転をしなくて良いように、会員制の乗り合いタクシー事業を商工会議所が行っている。商工会議所の事業を「民間主導」と言う編集者の感覚は良く解らないが、とても便利な事業であることは容易に想像できる。黒字は出ているのだろうか?諏訪地方は高齢化が進んでいるが、このような動きは無い。事業者が手を出したがらないのは、赤字が見込まれるからではないか?伊達市はどうなのだろう?
「安心ハウス」という高齢者向け賃貸集合住宅が人気だそうだ。警備会社と契約し緊急通報体制を整え、食事や介護サービスも受けられる。民間が建てたマンションが基準を満たせば市が認定する形を取っている。

全国の地方都市が団塊世代を誘致するように「躍起になる」なかで、注目されている自治体だという。医療費が最も高い世代を誘致しようとしているのはとても不思議な気がするが、おそらく彼らの収入ではなく、資産がうまみなのだろう。収支は黒字になるのだろうか?

京都府日吉町
林業ビジネス化」が取り上げられている。日本の林業の問題点は、山林の所有者が細分化されていて大規模林業に向かないこと(山間部の農業を想像すると近い)、山がちで林道を整備しなければ大規模化が出来ないこと、生産財の価格に対して人件費が高いこと・・などがあげられる。
文面からおそらく「山林の団地化」を図ったのではないかと思われる。また、ここ数年の木材価格の高騰も後押ししているとのことだ。だが、経済の崩壊の影響は本書が書かれた後のものなので、どうなったかはかかれていない。住宅需要が大幅に冷え込む中で、国産材への需要は今も変わらずあるのだろうか?

福島県矢祭町
「毎度おなじみ矢祭町」と言うくらい、この手の話の中でしばしばアイディアが取り上げられる。合併しないで何とかやっていこう、と言う町。86人から50人に職員を減らし、住民票発行を無休で行い、財政基金を8億から11億に増額した。役場職員OBによる行政サポーター組織の発足。

島根県海士町
役場職員の給与が全国で一番低い町。交付税が11億円から1億3千万円も1年で減らされた。公共工事の起債償還期限が重なり、財政危機に。
離島であるため合併効果が見込め無いと言うことで町長以下職員の給与を削減。人件費を削っても職員が集まるのは何故だろう。他に仕事が無いからだろうか。地方都市なら、同じような条件のところがあるのではないだろうか。


どれを見ても、同じようにまねをすれば成功するものではない。本にはなかったが、おそらく中核になっているキーマンたちの努力が、実は最大のメソッドなのではないか。