「フィンランド豊かさのメソッド」堀内都喜子 集英社新書

北欧モデルが日本の処方箋となるためには、何故現在の形になったのかが解らなければ意味が無い。今の北欧をコピーしても、様々な前提条件が異なれば効果を発揮しないからだ。
今、「北欧モデル」を理想とする人たちの中で、どれだけの人がそこまで考えているだろうか疑問に思う。人口を見ただけでも、日本の大都市程度の人口が広大な土地に住んでいる。天然資源も豊富で、日本とは余りに違う条件の国を比較に持ち出すことの意味を問うスタンスでものを書いているのに出くわしたことは余り無い。

仕方が無いので、自分で勉強することとした。とりあえず、北欧の事情について書かれた本を読んでみることにした。

フィンランド豊かさのメソッド (集英社新書 (0453))

フィンランド豊かさのメソッド (集英社新書 (0453))

1.主要産業
主要産業は森林、金属・エンジニアリング、情報通信産業の3つ。以前は製紙と林業、造船だった。国内市場が小さいため海外市場との貿易を重視。EU加盟国。産業では国際競争力上位常連国。1位に何度もなっている。

2.現代史
戦後の急速な経済成長を遂げる。「ヨーロッパの日本」と呼ばれたが、敗戦国の賠償金完済は日本より早かったらしい。ヘルシンキ夏季オリンピックが52年(!)に行われている。

3.90年代バブル崩壊〜著者インタビューから〜
90年代には日本同様バブル崩壊に見舞われる。失業率が20%を上回る。食糧援助や学校で子どもたちのために朝食を用意するような状態だった。銀行危機が金利を暴騰させた。コレに対してフィンランドはどう向き合ったか。著者は日本の新聞社の手伝いでオッリ=ペッカ=ヘイノネン氏(29歳で教育大臣、インタビュー当時は37歳で国営放送社長)「銀行救済による金融システム保護」と「主要産業への集中投
資」だったということだ。
集中投資の中では、他の予算が容赦なく切られ、企業も厳しいリストラに喘いだ。道路の修繕費がなく、除雪も十分行われないなどの弊害が生じた。
4.教育制度改革
90年代経済危機後に、教育制度の再編成がおこなわれ、教育の仕組みについても凝ったつくりとなった。学校統廃合、教育者再教育、給食費切り上げなどなどが行われ、経費の節減が行われた。経済が成長した今も、教科書は今でも使い回しだ。しかし一方、教職志望の若い人をアシスタントとしてクラスにつけたり、クラスを半分に分けて別々の授業をやったり、外部講師を招いたり、実に多様だ。著者の講師体験記も載っているが、質問が沢山出ることに非常に驚いた。日本の学校の外部講師を何回かやったことがあるが、よほど良い支援を受けているクラス以外は、事前に用意した質問以外はほとんど出なかった。

外国語教育については、英語教育が小学校からある。これについては懐疑的な立場を私はとるが、学校によっては小学校2年生からはじめるところがあったり、望めば他の外国語を受講することも出来るらしい。コレは面白いと思う。「宗教」を授業として教えている。他民族が入り乱れて住む欧州ならではだが、日本も最近が在住外国人が増えてきたのだから、やったほうが良いかもしれない。この本の中では、教師がどうやって教えるべきなのか悩むところが書かれていた。

中学校には部活がなく、スポーツは地域のクラブに入る。ということは、地域のクラブを運営する人たちがいると言うことだ。日本では先生が忙しい授業スケジュールと生徒指導の合間を縫って部活を指導しているが、かなり無理のあるシステムでも
あるし、とても大変だと思う。制服がない。校則も無いに等しい。制服を廃止すると父兄から抵抗があるだろうな、と思う。衣料費は低所得世帯には手痛い出費だからだ。このあたりはどう考えるのかは著書には出ていない。

高校は全て公立高校。高校受験が無い。音楽やスポーツなど、特別な高校のコースで無い限りは内申書で決まる。私のような一夜漬け突貫工事人間には嫌な教育システムだが、日本では合理的と考える人も多いだろう。


5.労働環境
休暇が長いのが特徴。強制力のある法律が機能していると思われる。4週間の夏休みがあり、ドイツに似ている。何故そういう休暇制度が出来たのかは不明。文化的にまとめて取る休みを許容するようだ。自営業はどうなのだろう。

6.公共サービス
効率化が進むが、公務員の人員は非常に少なく、庁舎の住んでいたユヴァスキュラ市の人口は8万いるのに、国際課職員は1人、広報課は3人。ウェイトレスの数も少ない。おかげで、だいぶ待たされるがそれを許容しているのは国民性ではないかと著者は考えている。ITの利用が進み、ネットバンキングは当たり前である。支店はここ10年で半分に減った。金融効率の良さは様々なメリットがあるのではないか。

7.文化
会議のやり方も「単刀直入に本題に入り」「各自の意見をストレートに述べて」「その場で決定」するそうだ。日本の会議は非効率、と言われているが、そういう会社もあればそうでない会社もある。

8.労働環境
失業率が6.4%と高いが、あまり国民の間にあせりはない。社会保障制度、経済成長、国民性・・・と著者は推測している。
よく言われることは、再就職までの発達した研修システムだ。労働者の業種間移動がスムーズに行かないことが労働生産性を下げることに注目し、失業者への相談体制、研修体制をかなり作り込んでいると言われる。誰の意見でそうなったのかはわか
らないが、労働組合の組織率の高さを挙げる人もいる。

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