子どもと女性の貧困 放送大学

格差社会と新自由主義 (放送大学教材)

格差社会と新自由主義 (放送大学教材)

第10章では子どもの貧困について述べられている。
子どもの貧困はもちろん親の就労状況によって決定づけられる。
以下、まとめ。

親の就労状況と貧困
 子どものいる夫婦で共働きをしている世帯の1/10は貧困状態にある。特に母子世帯の貧困化は顕著である。しかし、海外に比べると母子世帯の割合は低い。従って、国際比較統計では、二人親世帯の所得の低さが子育て世帯の貧困率を引き上げている要因であると分析出来る。
 原因は妻の就労が非正規であることだ。テキストでは触れられていないが、地方での非正規律の高さは都市部のそれとは全く異なる。そもそも非正規の仕事すらない地方も多い。
 子育て世帯の貧困が固定化し易いのは、低学歴、母子世帯、二人親世帯でも夫の収入が不安定な場合である。夫婦の実家に援助出来る余裕がない傾向があり、不安定就労から脱出出来る教育や職業能力を涵養する素養がないことなどが原因である。DVや精神疾患、犯罪、破産など要因が複合化しているケースが多く、解決は非常に困難である。

母子家庭の貧困の要因
 母子家庭の貧困は、働く子育て世代の女性の賃金水準が低い事と、子育てとの両立の二つの壁によるものである。非世紀労働者の増加は女性の方が顕著である。今も尚、「女性の仕事は夫の家計補助」とされている。主要稼ぎ手のいない母子家庭では、貧困化は避けられない。厚労省国民生活基礎調査」によれば、母子家庭の半数がパートタイマーか派遣のような非正規雇用である。

政策の失敗
 政策上の失敗もこれに追い討ちをかけている。母子家庭を長く経済面で支えてきた児童扶養手当が削減され、生活保護母子加算が廃止され、替わりに「自立支援」「福祉から雇用へ」といった就労支援が行われた。
 「まじめに働く者がむくわれる社会」という当時の首相(安倍)の言葉は、地方の就労を巡る状況を理解していないばかりか「働かない者は自立していない」「福祉に依存している」という認識の裏返しのような政策展開であった。就労支援が行われてもそもそも子育てと両立出来るような仕事がなければ話にならないのだ。

「母子家庭」の原因
母子家庭となった原因は離婚である。離婚が原因で貧困になるより、貧困が原因で離婚する場合も多い。不利な諸条件を抱えた若者の早婚が結婚後の貧困につながり、それが離婚につながるケースが指摘されている。適切な事前指導による予防が望まれる。

養育費
 父親の養育費不払いも原因の一つである。強制徴収などの法制度はあるが、そもそも貧困が原因で離婚していれば、父親側に差し押さえる財産がない事もあり得る。


父子家庭
 ひとり親世帯を巡る諸問題においては、父子家庭への偏見も取り上げられるべきである。母子家庭は家計に、父子家庭は家事に問題を抱えていると言った状況は、必ずしもない事が統計上明らかになっている。男性の賃金も二極化しているからである。

教育課程での貧困
 就学援助(自治体による学用品や給食費、修学旅行党の諸費用補助)は増加を続け、大阪、東京では4人に1人が受給している。
 給食費未納の原因は追求しきれていない。2005年度未納児童は10万人、22億3千万円で過去最多。原因は3〜4割が貧困。ただし、学校による分析のためはっきりしない。この面でさらなる研究が必要である。

把握の問題
 学校からの脱落が貧困が原因であると把握されないケースも後を絶たない。

底辺校の問題
高校中退率が底辺校ほど高い。
高校授業料の減免制度利用者は2006年で22万4385人。96年から2倍に増えたが、底辺校に偏在していて増加率も高い。生徒の家庭を分析すると低所得、失業家庭、母子家庭である事が多い。入学時に学力にハンデを抱え、勉強への興味を失っている。病気や家族関係、障害などが複雑に絡み合っているケースが多い。日本の高校中退者は7万人で進学したにもかかわらず彼らの学歴は「中卒」と同じ扱いである。
サポート体制はほとんどない。

日本の問題
児童福祉、教育政策については「劣等処遇の原則」の問題がある。つまり、最低限の生活を割った場合のみ支援が行われる。「扶養義務者の努力が足りないからだ」という理由付けのもと、子どもへの支援が行われていない。

以下、感想。
今も地方の企業などでは少なくない人事担当者が「女性は家計補助」と信じている。産休などがコスト上受け入れられない零細企業はさておき、中堅企業の女性排除は何だろうか。今の若い世代は「女性の方が有能な社員が多い」としばしば耳にするが、相変わらず方針を変えない会社は多い。男性社員による一種の保身のような気がしてならない。

自治体や団体等による婚活事業にいまいち賛成出来ないのは、このような状況をどう考えるかが不明だからである。諸条件が整わず結婚に至らない若者が結婚した所で、何かが改善するわけではない。子どもを持って貧困状況に陥れば、いつものパターンではないのか。そうした状況にまで一歩踏み込んだ施策や支援が必要なのではないのか。

安倍首相への批判は面白かった。予防の概念がない事には失笑を禁じ得ない。オペレーションの理解出来る政治家の登場が望まれるが、無理だろう。戦争を知っている政治家は既にひとりもいない。

いずれにせよ、予防的な対策が必要な分野である。人手が必要だ。