本借用のお礼

長々とお借りしてしまった。
今までみたいに夜中に行って預けて置いておけないので、すまない。

あなたがリアルすぎて怖いと言った理由が、よくわかった。よくこんな作家見つけてきたね。本屋で見かけても、手に取ったこともなかった。女性視点のところはわからないけど、男性視点の箇所は、大抵の善良な男性諸氏ならもっている歪んだ欲望や劣等感だ。まちがいなくそうだ。そして、こんなに陰影くっきり書いた人は、俺は見たことがない。。

善良などこにでもいる一般人が、一寸したことで救われない世界に転げ落ちていくのは、規模や質感が違っても、別に非日常的な事じゃなくありふれたことだと思う。だから、普段から俺たちは心の底でいつも怖がっているのではないかな。それをこんな風に書いてみせられて、驚いてしまった。

不潔感がないのはよく話が整理されているからか。語彙と文章が派手だけれど、うまい。だから、読んでいる途中は気持ち悪いけど、読んだ後また読みたくなる。

強殺された昔の彼女の葬式を古墳の上でする話とか、遂げられなかった想いが人形に転嫁していった中年男の話とか、これから殺すことを黙ったまま、子どもにディズニーランドの約束をするところとか、怒らない妻に劣等感を抱く男とか。こうやって書くと、2時間ドラマにも出てきそうな陳腐な話だ。そりゃそうだろう、日常の話なんだ。ところが、この人の文章にかかると退屈さはどっかへ行ってしまう。

配偶者に「あなた、こういう事したんだってね」追求されるでもなく、かなり細部まで淡々と話される白昼夢のような感覚というか、職場の同僚あたりに唐突にずっと隠しにしてきた自分の暗い欲望を、「こういう事ってあるよね。うんうん、別に隠さなくっていいんだよ。」と言う風に言い当てられる感じか。ハードディスクの中身をさらされるのとは別な意味で、とても痛い。。

よく読むと、何気ない情景の表現もかなり書き込んで推敲してある。リズムもきちんと作ってあるし、丁寧な仕事をしているのか、細かい性分なのか、よくわからないけど、細密画みたいだ。

自分がどれだけ本を読んでいないのかよくわかった。だからというわけではないけど、貸してくれてありがとう。


そのむかし、古谷実の書いた「ヒミズ」という気持ち悪い漫画の話を前したかもしれない。
中学生男の子が父親から虐待されて殺して埋めてしまい、生活に先行きが無い上に罪に苛まされているのに、次々に出てくる周囲の人々は、みんな利己的な変態犯罪者ばかりなのに恵まれて暮らしているという救われないストーリー。
(興味を持っても読まない方が良いと思います。本当に気持ち悪いから)

この本を読みはじめて、最初は似ている気がしましたが全然違うことに気づいた。

忌中には世間があるから、いつも良心と対置されています。それによってまともな世界に帰れなくなりそうな破滅性が際だつんだけど、「ヒミズ」の方は主人公がまともで、反対に世間がみんな狂っている救われない世界観だった。

俺のように少し狂っている人間には、「ヒミズ」の方がにあっているように思う。いや、忌中の方が想像力に迫ってくる物があるし、すごいんだろうし、どっちが面白かったと言えばどっちとも言えない。ただ、俺にとっては、と言うだけのこと。