市財政海外の事例

巨大都市の危機と再生―ニューヨーク市財政の軌跡

巨大都市の危機と再生―ニューヨーク市財政の軌跡


 市町村の財政危機は日本だけの専売特許ではない。市町村が強欲な現代人の、利権をむさぼるもっとも格好のターゲットだ。「関係者」と称する有力者が、住民の知らぬ間にさまざまな利権を作り上げている。「住民」について明確なビジョンを持たない首長や議会がこうした「関係者」を増やす土壌となっている。こうした不正義を見逃さないためには、今日の自治体の財政危機がどのように起きていったのか、その過程を他の事例を参考に分析しておくことが、ワクチンになりうると思う。

 海外でも共通の問題があるはずだ・・・と思っていたら、長野市の平安堂でこの本を見つけた。経済学者が政策についての分析を行うことが盛んなアメリカの事例については興味深いので、今週から少しずつ読んでみることにした。

 2008年6月にこの本は刊行された。金融バブル崩壊リーマンショックとして世間に露呈する前のことだ。しかし、すでにニューヨーク市財政においては、この時期から大きな破綻の足音が近づいていた。破綻が2009年度暫定予算においてブルームバーグ市長の提出した予算案は、対前年比1%増に抑える緊縮予算。恐慌を迎えて臨戦態勢といったところだ。いまごろどうなっているだろう?

 ニューヨーク市のGDPはここ数年の好況期に3.3%増加し、民間雇用は5.8万人増、金融セクターは1.1万人増、証券業ボーナスは47%増の330億ドル超・・・言われてもぴんと来ないような、天文学的数字が並んでいる。宝くじに当たっても、こんな金は一生見ることがない。

 5.8万人というのがどのくらいの数かと言うと、諏訪地方の雇用人口とほぼ同じような数である。諏訪地方が1年でニューヨーク市内に出現したようなものだ。

 ニューヨーク市の財政規模は2007年の好況期に378億ドル。前年を36億ドルも上回っている。自治体予算が「10%増」ってどうよ?バブルにも程がある。アメリカの中核都市である以前に、ニューヨークは世界の中心都市であり、ニューヨーク市の動向は世界の動向を読む指標となりうる。私は世界の中核都市でこんなことが起きていたとは知らなかった。知っていれば、ここ数年がひどいバブルにあったことに容易に気づいたはずだ。