ある人への返信

産業再生とニートワーキングプアについて、ある人のメールに返信した。以下全文。

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長文です。
大分昔のお話ですがずっと気になっていたことがあります。
産業集積がどのようにできていくのだろう、
というお話です。

>たぶん「明日の夢」と「自分の今日の仕事」
>がつなげられるということにまだまだ気が付いていないのが
>産業界の現状だと思います。

いつのまにか日本は「明日の夢」は「テレビの中の出来事」になり、誰かがいつかやってくれるものになったのかもしれません。
日本人なら誰でも知っている「ホンダ」も「新幹線」も「おおすみ」も、どこかの誰かが作ったはずなのですが、「仕事」とは今目の前にある処理すべきものであって、夢を仕事に持ち込むことは、同僚に余計な仕事と思われるのかも知れません。
高度経済成長期のものづくり伝説を見ていると、新しいモノがつくられる背景で、モノを目指してネットワークが形成され、そのネットワークがさらに新しいものを生み出していく、そういう過程に私には見えます。
産業集積が出来ていく過程とは、ネットワークが形成されていく過程なのでしょうね。
産業が衰退している地方では、そのネットワークが切れていく過程の中にあるのかもしれません。

ここのところ、NHKスペシャルで「ワーキングプア」の問題を扱っています。事例として取り上げられた全国の様々なパターンの人に共通して言えることは、社会との「ネットワークが切れている」ことだ、とレポーターがコメントしていました。。
その中で、家族とも縁が切れて孤立して仕事をしていたら、気がつけばホームレスになっていた一人の30代の青年がクローズアップされていました。最初は雑誌を拾って売って生活していましたが、徐々に人とのネットワークを回復して、ホームレスの仲間の代表になり、市の道路清掃業務の仕事を受けるまでになっていました。

 以前少しだけお話ししましたが、私はかつてフリーターだったことがあります。今風に言えばニートです。夜のお店のバイトが続かずに、日雇いの運送の仕事をやって食いつないでいる典型的なワーキングプア層でした。今から思いだせば、悪い夢をずっと見ていたように思います。NHKの彼の中に、パラレルワールドの中にいるもう一人の自分が見えて、他人事とは思えませんでした。
 「何故ニートは努力しないのか」とよく言われます。たいていの貧困が自業自得であると思われています。日本ではほとんど知られていないことですが、ニートは一種のパニック状態の中にいます。話すと長くなりますが、経験上、一種のループの中にあり脱出するのは自力では無理です。
 取材された彼が市の仕事を請け負うきっかけとなったのが、「自分以外にも同じ思いをしている人がいること」「その人たちのために、市の仕事をやってみようと思った」ことだそうです。自信を失って自分のことが本当に嫌いになった人は、自分のために努力しません。しかし、そういう人でも他人(ネットワーク)のためなら頑張ろうと思えます。彼にとってはそれが「市の清掃業務」であって、私にとっては「まちづくり」や「中小企業」でした。

>具体的シナリオを描けるということが
>重要だと思っているのですがね。

 番組の終わりで、そのことを訥々と語りながら泣き崩れる彼の姿が映されていました。仲間のネットワークの中で、将来への具体的なプランが見えてきて、自信を取り戻していったのだと思いました。パニックの中にいる人は、そうやって普通に泣いたりしません。今置かれている場所に気付き、険しいけれども将来への道筋のようなものが見えたのだと思います。

 ネットワークが切れた産業界は、産業界それ自体がホームレスなのかもしれません。悪い夢を見ているような感覚は、孤立している証拠だと思います。

 社会のあらゆる側面で、ネットワークの再生は非常に重要だと思います。そんなことを最近考えています。