東アジアの中の中国史(放送大学教育振興会)

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東アジアの中の中国史 (放送大学教材)

東アジアの中の中国史 (放送大学教材)


第1章中国とは何か

現在の中華人民共和国は広大な領土と多様な風土を持つ。2000年統計で12億の人口を擁しているが、居住地域は2つの大河の中下流域と沿岸部である。
大半を占める漢族の他、55の少数民族が居住する。これらの地域がどのようにして「中国」と呼ばれる一つの地域となったのかを考える必要が有る。なぜならば、「中国」という地域と「中国人」という民族は、太古から自明のものとして存在した訳ではないからだ。

古代の文献に置ける「中国」は、都ないしその周辺の狭い地域を指すものだった。点在する都市を結ぶ点と線が、面となったのは戦国時代に田野の開発が進んでからである。

「天下の中心には中国があり、夷狄を周囲に持つ」という伝統的な世界観を「中華思想」と呼ぶ。しかし、夷狄という考え方は差別的な考えが必ずしもあったとは限らない。中国的な価値観を取り入れるならば、それを中国と考える柔軟さもこの文明の特質の一つである。
近代に成立した国民国家と、こうした中華思想に代表されるような伝統的な国家観?の違いは、固有の文化が並立競合する前者と異なり、後者は天下の中心が一つであり、周囲地域は服属することが有るべき姿と考えられている。第二に、領土と国民をはっきり持つ前者に対して、後者は中心が周囲を感化する、という形が想定されている。

清末の梁啓超が現代的な意味での「中国」を定義した。その意義は、世界の中心としての、伝統的な国家観としての概念ではなく、王朝名ではない名称を使用する事で、国民が国家の基礎である事を想定し、民族がそれぞれの国を尊ぶ新時代の流儀を受け入れたものである。
そうした考え方が、現在の中国を生み出して行った。