戦争を途中で止めることはできないのか

8月15日が近いこともあり、この本を読んでみることにした。

最終章に「人々はどのように戦争をみたか」という章がある。
マスコミは「暴支膺懲」というスローガンを掲げ、日中戦争では拡大路線を支持していた。
「戦争は軍部に騙された」という一般通念が誤りである証左のひとつである。両国の緊張関係は戦争は避けられず、それならば現地にいる人々(軍人も含む)の安全路線をとるためにも、積極路線をとる(軍のお尻を叩いて優勢を確保させる)方向に国民が動いた心理は容易に理解できる。一旦戦争が開始されたならば、戦争遂行に全力を尽くすべきとする意見には、総力戦であった当時の戦争形態からすれば合理性があるように思われる。しかし、その考えを突き詰めていけば停戦の努力は入り込む余地はない。日本政府の当初の不拡大路線は、軍部の「対支一撃論」にあっさりと敗れ、上海事変の後に南京占領まで進展してしまう。先勝に奢り中国を暴力で制圧できると勘違いした国民が大勢現れ、軍部の暴走を支持し慎重派弾圧に荷担した。
その後も停戦を試みた人々はいたが、この頃になると中国民衆の間に抗日機運が高まってしまい、もはや収拾付かなくなっていた。

現代の日本に目を向けてみると、安保の枠組みにも憲法9条慣例法制の枠組みにも停戦努力のシステムはない。自衛隊シビリアンコントロールに服することを是とするところが当時と違うが、戦争が始まれば自衛隊員への同情が集まることに相違なく、それは和戦両方を外交手段としようとする日本政府の行動を「徹底さを欠く」と見るようになるだろう。

同書で紹介されている当時の世論を記録する。
中央公論 矢内原忠雄「国家の理想」
国家の理想は正義と平和の実現にある、としただけで出版社自主規制により削除され矢内原は大学教授の地位を失う、
文藝春秋 「支那事変の将来」
対談。積極派、消極派の自由な発言がされているが、誰も長期化、泥沼化を予測していない。
・「北支事変天佑論」小林一三 
戦争歓迎。高額な軍事費も大陸に権益を確保できるならば構わない、とする。
萩原朔太郎「北支事変について」
中国の大衆が日本に敵愾心を持っていることに触れ、中国の豊かな国土と民衆の敵愾心が団結すればかなわない、民衆を敵としてはならないと警告。