近年、「臨時公務員」という言葉がネット上で見られるようになった。
「公務員=終身雇用=安定=お気楽」という社会通念に対して、役所の中の問題点を強くアピールできる言葉だと思う。

昨日読んだ記事:

若者が「地域再生」を諦める時――。
自治体非常勤職員の24歳女性のケース(日経ビジネス
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20100608/214841/?P=2

前半の鋭い切り口に感心した。ところが、後半は何らかの圧力があって改ざんされたのかと思えるほどの質の低さだ。取り上げた話題の先進性と、後半に事実を覆い隠すやりかたが「いかにも」な記事なので、とても興味を持った。

まずは前半。
社会教育指導主事という仕事がある。大学で社会教育関連科目を履修すると取得できる。公民館などでの講座編成に携わる専門家だ。多くの自治体は社会教育の価値を理解できず、学校教育と混同して元校長などをあててごまかしている。学卒後、どのような学習行動をとるかが社会や人生に大きなインパクトを与えるのだが、基本的に自治体の一般行政職公務員の大部分は地域教育に関心が薄く、知識もないためこのような状態になっている。

こうした背景を一切説明せず、最初の少しを読んだだけで社会教育の重要性とそれに携わる取材対象者である彼女の本気が理解できるように記事の構成は組まれている。

「あなたが企画するから参加する」という言葉をポイントに持ってきたのは、社会教育指導主事の仕事のやりがいを非常によくとらえている。自治体で異動ないし左遷されてくる無気力な職員たちと異なり、彼女が社会教育を真に必要な施策であると理解している証拠である。社会教育のような、一般社会には理解しがたい施策をテーマにしておきながら、この言葉を引き出したのはこの取材者の力量が優れていることを示している。社会教育の職員論においては、担当職員が専任化されないことが、まさに問題となっているのだ。

ところが、後半はどうだ。臨時化が進むのは総人件費が抑制されていることが問題である。そう、その通り。記事に書かれていること、根拠としている事実も全く正しいし、現実にも合っている。

ところが、ここから筆者は意図的に、あるいは無意識的に事実の一部を隠しながら論を進めている。

しかし、実際に仕事の量が減るわけではない一方で、定員が削減されたり総人件費が抑制されたりするのだから、当然、歪みが出る。このため、久美さんのような非正規雇用が増加する。

仕事量は減らないどころか増えていく。それはそのとおり。
しかし、何故総人件費が抑制されると定員が削減されるのかを書かないのは何故だ?
どこの自治体も破たん寸前だ。人件費が抑制されるのはやむえない。ならば、給料を減らして人手を確保すればよいのだが、ところがそうならない。

原因は言うまでもない。正規の役人の給料が規制で守られているからである。そこでやむを得ず「正規採用を抑制」し、「臨時に置き換える」ということが横行しているのである。
そして、同じ労働をしているのに新人より安い給料で、不安定な雇用を強要されている「臨時公務員」を生んでいるのである。

この問題の本質はここにあるのに、書かれなかったのは何故だろうか。

もしかして、自治労に取材しているので書きにくいのか。
あるいは、掲載の段階でクレームでもついたのだろうか。


総務省の調査によれば、2005年4月1日時点の地方公共団体の「臨時・非常勤職員」の数は、約45万5000人で、2008年には約50万人へと増えている(ただし、6カ月未満の雇用契約は含まれていない)。

そう言う人たちが08年に50万人になった。諏訪地方人口の2倍の人たちが、財政部局と担当課の考え一つでクビにできる身分にされている。彼らは若ければ自治体職員の試験を受ける資格があるが、20代を過ぎると最早手遅れとなる。何故年齢制限をかけるのだろう?若くなければ覚えられないことは確かにある。しかし、役所の場合は部署を転々とするため、それほど大きなハンデにはならないはずだ。要は終身雇用を守りたいだけなのではないのか?

終身雇用体制を崩さない限り、この身分制度はなくならないだろう。