世界史の中に、地中海の時代があった。

海の都の物語 塩野七生 3

イタリアの国旗は3色だが、海の上では中央に紋章がある。この紋章は「ヴェネツィア」「ジェノヴァ」「ピサ」「アマルフィ」の4カ国の紋章を組み合わせたものである。4つとも「地中海の時代」に、地中海に覇を唱えたイタリアの都市国家である。4つの攻防から塩野さんは様々なドラマや教訓を引き出してみせてくれている。

ヴェネツィア
北方民族の侵入にさらされたことから、湿地の上の島に都市を築いた。そして、交易をもって地中海中に居留地や拠点をつくり、ナポレオンに滅ぼされるまで地中海の女王でありつづけた。特異な元首(ドゥーチェ)を中心とした寡頭制による政治体制により指導されたこの都市国家は、飛び抜けた才能は育ちにくかったが、組織力では他の3つの追随を許さなかった。交易の際は 護衛ガレー艦隊をつけた 国営船団を組んだ。しかし、これは護衛艦隊を引き離されるともろかった。途中から作戦を後述するジェノヴァ方式に転換する。

ジェノヴァ
南フランスへ続く古代ローマからの街道沿いにあり発達した。この国は4つの有力な家が抗争に明け暮れ、政治的には常に不安定だった。そうしたことから、政府が主導するのではなく多数の個人のタレントを輩出し、彼らがゲリラ戦を行う事で敵対するヴェネツィアに対抗した。

ピサ
アウレリア街道の沿道にあり、ローマから南フランスへ続く海路の中継点でもあったピサ。アラビア数字を西洋に紹介して数学の基礎を作り、宿敵フィレンツェとの抗争を通して鍛えられたとも言える。しかし、ピサは大きな誤りを犯した。「農業的基盤をもたず貿易立国でありながら」「イデオロギー色を鮮明に打ち出しすぎた」ということ。教皇派(グエルフ)と皇帝派(ギベリン)の抗争において、皇帝派に極端に組したため、ジェノヴァフィレンツェにつけ込まれ、メロリア海戦でジェノヴァに敗戦して以降、衰退の一途をたどった。

アマルフィ
ナポリ近郊の港町だったアマルフィは、交易によって成長した。聖ヨハネ騎士団の創設にも力を発揮し、長くエルサレムイスラムの海に水没する事から救い続けた。しかし、肝心の十字軍に参加できなかった。なぜなら、ノルマン人に本拠のアマルフィを占領されてしまったからだ。本拠を覆滅されると、どれほど各地に強力な拠点をもっていてもやがてそれらは枯れてしまう。そういう教訓をアマルフィの事例から読み取る事ができる。

海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年 3 (新潮文庫)

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