その3。

司馬作品が好きだ。
その歴史観について論じるのが最近の流行だが、司馬氏の作品の良い所は、人物のディテールをよく書き込む事だと思う。「坂の上の雲」では、乃木軍とその参謀を徹底的に無能にしてしまったが、そうしなければあの作品は成立しなかっただろう。妥協の無い姿勢のおかげで、私たちは歴史物語を楽しむ事が出来る。

中学生の頃、初めて司馬作品を読んだ。
燃えよ剣」である。新撰組を副長の目から描くという変わった趣向だ(と、当時は思った)。
近藤勇などが戊辰戦争の途中で脱落して行く中で、土方だけは最後まで節義を曲げずに、蝦夷まで転戦する。蝦夷共和国幹部の中で唯一の戦死者。

耐性の無かったわたしは、すっかり土方歳三にあてられてしまった。思想に対してはもっと柔軟になるべき年頃だったのに、変なかたくなさを身につけてしまった。
40の声が聞こえてくる最近だが、未だに「副官タイプ」「節義」を自分の理想像にする始末である。10代のうちの感性は恐ろしい。

というわけで、この本は大人になってから読みましょう。30歳未満禁。