鉄道

鉄道の旅をしなくなって久しい。

車で動けばスケジュールが自由になる。車を持ってからというもの、忙しさにかまけてつい車を使ってしまう。

しかし、電車で旅をしていた頃の、あの妙な豊かさは何だったのだろう。ただ若かったから、と言うだけでは説明ができない。他人の予定に合わせて動かなくてもよい、あの頃の自分がとても懐かしい。
車を持つようになって、他人の要望に応じてどこにでも出かけられるようになった。そのことはとても喜ばしいことだ。誰かのために自分の時間を使うことは、自分のアイデンティティの確認のためにも重要なことだ。
ただ、車を持つようになって時間を自由に使えるような気がしていたが、考えようによっては他人の時間に使われているだけかもしれない。ダイヤによって決められた時間は、ダイヤグラムの都合で作られた時間のようでいて、自分で考えて作った時間だったのではないか。
(そういえば、「時間泥棒」なんて話もあった)

いつか鉄道で旅をしてみたい。ひさしぶりに、普通列車で、その日に行けるところまで行って、駅で寝ればいい。おっかなびっくり見知らぬ同乗者に話しかけたり。大急ぎで駅そばをかきこんだり・・・。


その日はまだ来そうもない。
いつかその日が来るまでは、マグロのように泳ぎ続けるしかない。
今止まったら窒息して沈んでしまうと思うから。
こんな夜は、中島みゆきの「ホームにて」とTHE BOOMの「中央線」を聞きながら、どこかにあるパラレルワールドの住人である、私を想像する。