サイレンの日(5)

その晩は大阪駅で寝ようと思いましたが、職務質問でパスポートをまた要求されると思うのでやめました。おまわりさんに手間を取らせてはいけませんし、パスポートを持ってないし。
郊外の駅で寝ようと思いましたが、大阪は暑いです。色々考えた挙句、夜行に乗ってその中で寝ようと思いました。時刻表を見ると紀州方面へ出る夜行があり、これに乗ることにしましたが、時間があまりなく、あわただしくキヨスクで食い物を買って飛び乗りました。大阪まで来て夕食が何でサンドイッチとアンパンなんだろう、と思いました。最近は駅でも色々売っていますが、当時はそんなもんでした。ボックス席がまるまる空いているところを探した所、一つありました。ラッキーと思って座ってから、何故あいていたかに気づきました。トイレの前だからです。まあ、しょうがないです。

夏休みだったのか、他にもお客さんが沢山いました。一晩中、トイレの戸を閉め忘れる人が時々いて、夜中にトイレの匂いと戸の音で起こされるのには閉口しましたが。それでも、よほど疲れていたのかそれなりに睡眠は取れたようです。冷房もがっちりきいていましたし。元々、体質として良く眠れるほうです。きっと頭の構造が単純に出来ているのでしょう。そういうのを、動物の名前で馬と鹿を書いて何とかというらしいですけど・・・。
 新宮付近で朝になりました。人の気配に気づいて目が覚めました。はっと目が覚めると、周囲の高校生の冷たい目・・・・。この風景どこかで見た事があるような、ないような。
夜行列車が途中で通勤列車に変わるという事に気づきました。またしても高校生の皆さんの注目の的となりました。しかも旅塵は前回より酷く、穴があったら入りたかったです。あーあ。またやってしまった。高校生の視線の痛い朝でした。「あー。えーっとですね。みなさん、これは実はですね。理由がございまして・・・。」とかなんとか良い訳できたら言いのですが、そういうわけにもいかず、やむを得ずそのまま視線を避けて窓の外を見ていました。海沿いを走っているらしく車窓からは海が見えました。たぶん海だと思います。何しろ、長野県民ですので海はあまり見た事がないので、よくわからないのです。貯木場になってました。「吉野杉」でしょうか?違うのかな?海の無い長野県民は海を見ると単純に興奮しますが、朝日に照らされた材木の皆さんが美しく、いつか吉野杉のふるさと「十津川郷」に行ってみようと思ってしまいました。(ちなみ10年後にそのことを思い出し、今度は車で行きました。其の話はまたいずれ。)(つづく)