失敗の本質

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

 米軍と日本軍を比較して日本的組織の長所と短所(というよりどちらかと言えば欠点)をあぶりだそうというのを狙ったらしい本書。

比較を簡潔にまとめると以下の通り。

 日本的組織は目的が不明確であり、組織そのものが目的になる事がある。戦略思考は短期決戦を狙い、結果冒険的な戦いを志向せざるを得ない。失敗した際などのオプションは少なく、兵器は米軍の標準化志向とは反対に一転豪華主義となる。
 戦略策定は帰納的であり、インクリメンタリズムが幅を利かせた。そのため、戦略でありながら統合性や整合性を欠く場合がしばしば見られた。
 システムや制度化を志向する米軍とは対照的に、日本軍は「同期」「学閥」「郷党意識」的な人的つながりを重視した組織形態により、作戦を遂行した。失敗者への責任追及も甘く、更迭したはずの人が違う場所で復権していたりした事もあった。米軍は結果により評価を行うが、日本軍は動機やプロセスを重視した。
以上

 この中で学習についての文化においては、特に考えておく価値があると思う。
 現実の状況に基づいた理論や思想を基礎にするのではなく、これまでの思い込みを基に情報を整理するのが日本軍だった。ミッドウェイの敗北の後本来開かれるはずであった作戦戦訓研究会は開かれなかった。黒島先任参謀は突っつけば穴だらけであるし、みな充分反省している事だからいまさら突っついて屍に鞭打つ事もないと考えたからだった、と記憶している、と述べているが、これについては人的ネットワークを重視して失敗の経験から学び取る配慮がないことを同書は指摘している。

 日本のあちこちに無駄な公共建築が乱立している。マスコミは一時的に取り上げてそれで終わった。一部の番組は教訓らしきものを報道したところもある。しかし、それは国民の間に不信感を植えつけたただけで、血肉になるまで充分反芻されて理解されたわけではない。その証拠に「あの頃はそれが普通だった」「一般にまだ値が上がると思われていた」として反省を回避している人たちは未だに多い。当時の当事者達に集まってもらい、反省と教訓を引き出す事が必要だが、それは行われると言う話は聞いた事が無い。